その女性は、

いつも、鞄の中に下着とパンストを入れていた。

もちろん、意味があった。

「いつどこで、何があるか、わからないから。」

という理由である。

それは、特別な意味ではなく、

「道端で、病気で倒れるかもしれない。」と言うのである。

だからと言って、いつどこで倒れるような持病は持っていなかった。

端的に言うと、性格的なものであった。


彼女は、会社を辞めて、

家の近所のチェーン店のクリーニング屋で

アルバイトととして働いていた。


そもそも、彼女がそこを働き先に選んだのには、

いくつかの条件が、自分と合っていたからだ。

まず、第一に、店の主人と奥さんが彼女の交代時間にしか来ないこと、

工場から衣類を取りに来る人も、

彼女の担当時間には、1回だけだった。

その間、彼女は、好きな小説を持ち込み、

読むことができた。

それに、自分のアパートメントから

近かった。

お昼は、自宅に帰って、

食べることができた。


けれど、自分の衣類は、

アルバイト先のクリーニング屋に

決して、出さなかった。

これも、性格的なものであった。

彼女が出した衣類が、彼女のものであるかどうかは、

店の誰にもわからないし、

工場の人もわからない。

偽名を使えばいいのだ。

しかし、自分としては、許せなかった。

わざわざ、休みの日に、隣町に行き、

クリーニングに出した。


彼女は、匂いに敏感であった。

あらゆる人が、あらゆる衣類を持ってきた。

それには、いろいろなにおいが染みついていた。

そこから、職業がわかる場合も、

多々あった。


彼女は、煙草の匂いが苦手であった。

頭が痛くなる。

煙草の匂いがしみ込んだ衣類は、

他の匂いと混じり合い、彼女は、気分を害した。

そういった衣類とまた煙草の匂いがしみ込んだ人が来ると

彼女は、いつも以上に無愛想になった。

できるだけ息を吸い込まないようにしていたし、

衣類は、さっさと工場に出す籠の中に入れた。


そして、自分の衣類のにおいを

ときどき、嗅いだ。