私は、お酒は強くない。
よく飲んで、グラス2杯が関の山である。
けれど、せっかくの旅だから、ホテルのバーに行こうと決めた。
ちょっと、お酒でも飲みたい気分だった。
ホテルで、30分ばかり、身体を休めてから、と部屋に戻った。
ベッドに横たわり、テレビを観ていた。
時計は、8時を少し回っていた。
9時過ぎに出かけよう、何となく、そんな風に考えていた。
ホテルの部屋の電話が鳴る。出る。
Zからかもしれない、とちょっと重たい気持ちになった。
私の友人からであった。
『加藤。』友人は、私の名を呼んだ。
『今、どこ。』私は訊いた。
『ホテルの部屋。』
『なんで。今日は、彼氏と一緒のはずやん。』
『それがなぁ。』沈んだ声である。
『今から、バーに行こう、思てたんやけど、一緒にどない。』
『行くわ。話、聞いてくれる。』

私たちは、ロビーで待ち合わせた。
鍵を受付に預けて、最上階に上がった。
エレベータに乗っている間も、彼女は、暗い面持ちであった。

バーのウェイターに席を案内されて、
私たちは、それぞれ、お酒を注文した。
私の注文は、いつも、決まっていた。
『このお店で、一番弱いお酒をお願いします。』
お酒を飲まない方が、マシかもしれないような注文の仕方である。
友人の話は、こうである。
彼氏は、まだ、会社にいる時間なので、
管理人さんに身内だと言って、中に入れてもらった。
『こんなこと言うと、加藤に馬鹿にされるかもしれんけど、
 あの人の日記があったんや。
 それで、読んだらアカン思たけど、どうしても、たまらんようになって、
 読んでしもたんやわ。』
そこには、平田の悪口が、山のように書いてあったのだ。
そして、すでに、彼には、別の女性がいた。
平田は、そっと彼の部屋を出て、
フラフラと街を歩き回った。
決心をして、彼氏の会社に電話をして、
今日、会う約束を明日にしてもらった。
『どうしたら、ええんやろ。』
彼女は、相手の男性を恨んでいない。
元々、不自然な始まりだったのだ。
いずれにしても、終わりにしなければならないことは、わかっているのだ。
私も、自分の決心を、彼女に話した。
『何で。加藤の場合は、私と違て、Zさんは、加藤のことを、好きなんやで。』
『そやから、アカンのや。』
『私には、わからんなぁ。』
私の友人は、私の好きな「バーディ」の映画を
『ただの男の友情の話やん。』と単純に考えられる性格である。
多分、私の気持ちを話しても、理解はしてもらえない。