彼女は、その彼に冷たい目を向けた。
短い間の私とその友人と彼の三人だけの立ち話であったが、
彼女は、徹底的に彼を無視した。
彼は、その後、私に言った。
『(彼女は、私が)僕とつきあうことを、いいように、思てへんみたいやった。
 ものすご、(彼女が)怖かった。』
私は、黙っていた。
彼女の言いたいことは、言葉に出さなくても、わかる。
『何で、こんな人とつきあうの。
 アンタは、こんな人とつきあう人間やない。やめて欲しい。
 Yのこと、思い出して。
 Yみたいな人としかつきあったら、アカンのや。』
一般的に見れば、彼だって、いい人かもしれない。
条件的な面で、という捕らえ方をするならば。
けれど、彼女と私にとって、Yと言う人間は、ある意味、特別だったのだ。
それは、特別と言う表現よりも、最適と言った方が、当てはまる。
Yにしても、同じように、お坊ちゃんである。
父親は、地方のライオンズクラブに所属する実業家で、
Y自身は、国立大学の医学部に通い、
常に学年トップの成績を保っていた。
異なるのは、その人間性である。
仮に、Yが余り裕福でない家の息子で、
聞いたことのない大学の卒業生であっても、
私とその友人は、Yに興味を持っただろう。
彼女は、もしかしたら、Zのことは、気に入るかもしれない。
私は、フト、そんな気がした。


自分の気持ちのない人とつきあうことが、
自由な気持ちを持って生きたい人間にとって、どれだけ苦痛か、
私は十分、理解していた。
私は、Zを愛せない。
それだけは、確かだ。
あんな毎日は、真っ平、ごめんである。
他人から見れば、贅沢なことなのかもしれない。