お茶の後、私たちは別れた。
渋谷の駅で、彼は、私の切符を買ってくれた。
『また、連絡します。』彼は、私に告げた。
彼と離れて、私はホッとした。
何故か、窒息感があった。
ホテルに戻ると、友人の修子は、すっかり回復していた。
私は、修子に彼の話をした。
『気ぃ、つけんと、アカンで。
世の中、いろんな人間、いるからなぁ。』
田舎に帰った次の週の夜に、彼から電話があった。
『今日、テンモク展に行って来たんだ。』
『珍しいですね、天目展なんて。』
『天目って、知ってるの?』馬鹿にしたような調子があった。
多分、彼は、私に天目のことを知らないと思って、
説明をしたかったに違いない。
『はい。天の目って書くんですよね。
元々は、千利休が好んで用いた茶碗で、』
逆に、私は、彼に天目の説明をし始めた。その私の説明を彼はさえぎった。
『そうですね。
あなたが、天目を知らないはずは、ないですよね。』
少し、がっかりした様子である。
彼は、その展覧会の内容を詳しく話した。
最後に、彼は、私を誘った。
『来週、関西に行こうと思うんです。
会ってくれませんか。』
私にとっては、かなり、気の重い申し出であった。
『ごめんなさい。
来週は、親戚の法事があるんです。』
『そうですか。
あなたに会えないんじゃ、関西行きは、やめます。』
彼は、残念そうに、取りやめることを決めた。
法事は、嘘であった。
多分、自分が好きな人に言われたとしたら、
嬉しい言葉である。
私に会いに、東京から関西にやって来る、飛び上がりたいくらいである。
しかし、彼に対する私の感情は、それと異なる。
彼らは、はっきりと私への愛情の言葉を発しない。
遠巻きにジワジワと攻めてくる。
『僕の気持ち、わかってくれるよね。』
そんな風であった。
はっきり、言葉にしてくれたら、こちらも断ることができる。
それをしない以上、もしかしたら、それは、私の勘違いかもしれない。
私が勝手に、彼らが私に愛情を持っていると、思い込んでいる。
そういう可能性もあるのだ。
時々、私自身を責めることもあった。
自分では、気がつかないうちに、
思わせぶりな態度をとっているのではないか、と。