京都で、着物暮らし

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『救命センター カンファレンス・ノート』
浜辺祐一 著 集英社 2023年

本書は東京下町の救命救急センターでの朝の申し送り(モーニング・カンファレンス)の様子を綴ったものである。下町と書いたが、はっきりと言ってしまえば「都立墨東病院」の救命救急センターでのことであり、本書に登場する「部長」とは著者のことであろうということは簡単に推測できる。

救命救急センターというだけで、かなり緊迫した申し送りを想像していたのだが、余りにも人間臭く、ある意味不謹慎な言葉でのやり取りも出てきて、正直笑うしかなかった。例えば、たまたま自宅を訪ねたお酒を飲んで呂律の廻っていない知人により、倒れていた傷病者を発見し救急搬送されたケースでは、傷病者の既往歴も、家族関係についても全く分からず、こんなことをつぶやいている。「やれやれ、だとすると、既往がないのではなく、調べてないだけで、逆に、何でもありってことね。そんなことなら、救急車なんぞ呼ばず、そのまま、うっちゃっといてくれりゃあ、よかったのに、こんな時、酔っ払いっていうのは、ホント、律儀なんだよなあ(pp.131‐132)」。またある時の救急隊体調との会話。『「ねえ、隊長さんさあ、もう一度聞くけど、ホントに、この人、さっきのホットラインでもって、救急指令センターから搬送連絡のあった傷病者なのかい」「は、はい、間違いありませんが……」「ふうん……しかし、どうみても、普通じゃあ、ないよね」「と、言いますと……」「いや、ひと言で言うと、汚いんだよ。」(pp.205‐206)』。確かに、この位のことは吐露しないとやっていけないだろうと思う。なぜなら、この救急センターだけでも本書によると、年間に2700件ほどの収容要請があり、これを1日に換算すると7件余りとなる。1桁の数字だと大した件数ではないように思えるが、この救急センターでは三次救急患者を中心に受け入れている。三次救急患者とは、多発外傷、急性中毒、熱傷をはじめてとする外因性の疾患から、脳卒中やくも膜下出血、急性心筋梗塞、大動脈破裂、重症感染症や原因不明のショックに至る種々の内因性疾患等が該当する。つまり、命に直結する傷病者ばかりである。救急搬送されてから、すぐに緊急手術をその患者にしている間に、次の患者が運ばれてくるという状況が毎日7件、365日続くと言うことである。

しかしながら、ドクターたちがこのような言葉で吐露するのは、その修羅場をかいくぐるための処世術のように感じる。本書では次々運ばれてくる傷病者を前に「助ける」という宿命と葛藤する医師の姿が浮き彫りとなっている。自殺した患者の命を助けたがために、患者をかえって苦しめたのではないか、すでに心肺停止状態で担ぎこまれた命をつなぎとめたものの、全く意識を取り戻さない患者に対して、それは正解だったのか。DMATとして緊急出動したものの、自分ができたことは点滴のルートを取る位で、自分の必要性はあったのか。表では全く語られることのない医師たちの本音がそこに透けて見えてくる。
 

それでも365日24時間休みなく稼働する救急救命センターがあるからこそ、私たちが安心して日々過ごせることに感謝をしなければならない。そしてここが私たちにとって生活に必要なインフラであることも理解しなければならない。このような救急救命センターを抱える病院の多くが赤字であり、経営がひっ迫している。そして、この赤字を減らすにはこれらセンターをはじめ、小児科、産科をなくすことが手っ取り早いとも聞いている。しかし、それが正解ではないことは明らかである。そもそも命を救う病院に「黒字経営」を求めることに無理があるのではないのか、改めてそう感じるのである。

=========文責 木村綾子