南極と超深海の両極地で、実際に自分の手で水中ロボットを潜らせてきた研究者による「実話」をご紹介するブログ。
今回は、「海底資源はホントに宝の山なのか?!」と、言うお話です。
日本近海にはレアアースを含む泥やコバルトを豊富に含む岩石などが賦存してると言われており、数年前から新聞やメディアで頻繁に取り上げられるようになりました。
10年ほど前からは内閣府や文科省、資源エネ庁などが海底資源開発を促進する研究予算を投じて、さまざまな研究が行われています。
「10年!どんな公共事業だよ?!」
と、ツッコミも多くあると思いますが、水中の開発、特に深海となると時間が掛かるのも事実で、現場海域まで1年に1回程度しか行けないなどのジレンマもあります・・・
例えば、SIP~海のジパング計画~と言う内閣府が推進する事業では、メタンハイドレートの調査や海底資源の効率的な採取方法が検討されています。
↑ 海底熱水鉱床から採取した岩石
(キラキラしている部分が鉱石)
ただ、こうした研究は大きな成果が無いと国民の目に見えにくいのが実情で、国民感情としてはもっと情報が欲しいところだと思います。
じゃあ、国民が見えない深海にホントに海底資源はあるのか?研究予算が欲しいだけの理由にしてるんじゃないか?
と思われる方もいますが、採るのが恐ろしく難しいということを除けば、海底資源は存在しています。
なぜ難しいのか?
例えば、佐渡金山を見たことある方はピンと来ると思いますが、山の中を何kmも掘って掘って掘って、388年掛けて採れた金は約78tonです。
しかも、陸上の金は「金鉱石」と言う岩石の中から精製して取り出します。その世界的な平均値は、1tonの金鉱石に含まれる金の含有量は5g程度と言われています。
つまり、1tonもの石を採っても小さじ1杯分程度です。
そのため、海象がコロコロ変わる海は船の運航費も莫大なので、もっと効率的な回収方法が検討されています。
では、金やコバルト、レアアースが採れれば日本は安泰なのか?と言うと、こも難しい問題です。
深海は生物量が圧倒的に少なく、我々の食卓に関わる機会も少ないのですが、一方で、生態系ピラミッドは繋がっていると考えられており、海底資源開発が生態系破壊になるのでは?との懸念もあります。
↑ 深海には大型の遊泳魚もいれば小型の底生生物もいる
特に、海底にセメントやコンクリートで基礎を作ってガリガリ海底を掘削する計画では、基礎を作る場所に棲息する生物への影響もさることながら、広範囲に掘削時の泥や砂が広がる影響が懸念されています。
※参考画像です
さらに、掘削時には大きな油圧装置を動かすことになるので音も出ます。
深海において音は球面状に拡散していきます。そのため、深海から海面に向けて、さらには遠方に向けて広範囲に広がります。
どの生物に何Hzの音が聞こえるか?などの研究もまだまだ進んでいません
関連研究
実際に浅い海では港湾工事などで被害が出た例もあり、例えば、定置網の魚が大量に死んだりいつも採れてる魚が全く採れなくなったりと言った事例もあります。
また、海底にセメントやコンクリートで構造物を作ると潮の流れが変わります。これによって、生物の棲息場所が変わって生態系に影響することも考えられます。
その例として有名なのが、みんな大好き浦安で、かつては豊かな漁場として有名な漁師町でした。
しかし、高度経済成長により工業排水などが原因で海が汚れて不漁が続き、漁師は公害を訴えました。日本で最初の公害問題とも言われています。
さらに、有名テーマパーク周辺の埋め立て工事が始まると、潮の流れはこれまでと全く変わってしまい、とうとう漁ができなくなり、漁師は漁業権を全面放棄せざるを得なくなり、浦安一帯から漁業が消えました。
深海と言えど生態系は繋がっています。深海の生物がいなくなることで食卓に上る魚への影響がゼロとは現状では誰も断言できません
何か1つの事象が引き金となり、ひょっとすると!美味しい魚介類が食べれなくなる日が来るかもしれません。
↑ 藍屋のアジフライランチはコスパ良いと思います。
そうならないためにも、海底資源開発の中には環境影響評価を行う計画が盛り込まれています。
生物への影響は公平な立場から見ても、5年や10年では分かりません。しかも、公害のように急激な変化があるのと違い、変化は確実にゆっくりと進行していきます。
サンマが不漁、タコが不漁、サクラエビが不漁、、、近年、そうしたニュースを毎年聞くようになり、原因究明が急がれます。
明らかに乱獲とは違う原因が我々の食卓に影響を及ぼしつつあります。
↑ 清水港周辺では美味しいサクラエビのかき揚げ楽しめる
海底資源も宝の山ですが、水産資源も宝の山です。どちらも大切にしながら海洋利用を進めるのが、海に囲まれた日本が示すべき未来じゃないでしょうか。