南極と超深海の両極地で、実際に自分の手で水中ロボットを潜らせてきた研究者による「実話」をご紹介するブログ。

 

今回は、「そもそもROV(水中ロボット)とはなんぞや?(入門編)と、言うお話です。

 

このブログでたびたび取り上げるROV(アール・オー・ブイ)と呼ばれる水中ロボット。

 

水中カメラや水中ドローンなどと呼ばれることもしばしばありますが、あまり詳しく紹介している書籍も番組もありません。

 

皆さんがテレビ番組などでよく目にする深海の生物などを撮影するには不可欠な技術なのに、生物や地質に目が行きがちでイマイチ取り上げられる機会が少ないと言う悲しい存在です。

 

ROVは Remotely operated vehicle の略で、早い話がケーブルの繋がったリモコン式の水中ロボットです。

 

その歴史は古く半世紀以上前に世の中に登場し、今日までさまざまな場面で活躍してきました。

 

例えば、日本を代表するROVに「ドルフィン3K」と言うのがありました。ナホトカ号と聞くとピンと来る方もいるかと思いますが、当時、沈没したナホトカ船体調査をしたのがドルフィン3Kでした。

 

このROVは有人潜水船「しんかい2000」が有事の際に救助に向かう目的で作られ、一時期は同じ母船に載せられていました。

 

これを皮切りに日本でのROV開発が一気に加速します。
 
近年では大深度かつ重作業を行う大型のROVだけでなく、浅海で作業をする中型のものやレジャーなどでも使う小型のものなど、さまざまなROVが生み出されました。
 
その用途もさまざまで、海底資源の探査や深海生物調査、水中遺跡調査、船底検査、水中構造物検査などさまざまです。
 
これらは適材適所でメリット・デメリットを考えて使う必要があります。
 
例えば、大型のROVはパワーも大きいため、強い潮流の中でも作業することが可能ですが、作業には大型の母船と運航人員が必要になります。
 
一方、小型のROVであれば家庭用の100V電源などで動かすこともでき一人でも運用が可能ですが、小さなスラスター(推進器)では少しの潮流で進むことが出来なくなります。
 
そのため、ケーブルが船のスクリューに絡まったりそもそもパワー不足で潜れなかったりします。
 
水中ロボット=なんでもできる!と過信するのは禁物で、実は限られた能力を使うことで精いっぱいです。
 
例えば、同じ水中ロボットにも海上自衛隊が運用する「機雷掃討具」と呼ばれるものがあります。
 
これは船の安全航行を脅かす機雷を探すロボットで、構造こそROVに似ていますが搭載機器や運動性能が異なります。
 
そのため、海や湖でROVを使用するには、用途や海域(海況)に応じて適切なROVの能力を見極めることができる経験が必要になります。
 
しかし、近年ではROVの運用をしたことない人が事故を起こすケースが増えています。その背景に、免許不要と言う実態があります。
 
基本的にROVは船に搭載して使うか岸壁などから投入して使うかで、操縦免許やライセンスと言うものが存在しません。
 
船舶免許違って国交省が認可するなどは行っておらず、どこかの団体や学校に教習に行く必要もなく、買ってくれば誰でも使えます。
 
しかし、近年ではこれが事故の原因になりつつあります。
 
ROVのパイロットになるには、ロボットの操縦方法だけじゃなく、構造や海の中での動き方、船とケーブルの関係などを、実海域訓練で文字通り頭と体に叩きこむ必要があります。
これをせずにROVを使うと事故が起こります。
 
特に、港則法などを守らずに航路などで使う人も増えています。
 
「漁具」と言えばなんでも許されると言うテレビ局やYoutuberなどもときどき見かけますが、調べてみると保安庁や港湾管理者などへの届け出がされていないケースがほとんどです。
 
そのため、当研究室でもROVに携わる学生には、運用方法と法令遵守の教育をしています。海を利用する人は同じ海で働く他の人に迷惑を掛けてはいけません!
 
常にプロ意識を持って海に出る。船乗りでもROVパイロットでも同じです。
 
これから海のレジャーが増える時期になります。海のルールを守って安全に楽しく利用しましょう!