南極と超深海の両極地で、実際に自分の手で水中ロボットを潜らせてきた研究者による「実話」をご紹介するブログ。
深海の研究をしていると、講演会などで「深海魚を食べたことがありますか?」と言った質問を受けます。
生物を専門とする研究者の中には、とにかく自分で食べて確かめると言う人もときどきいます。
驚くのは岩石や地質の研究者さんでも、石や泥を舐めてみるという人がときどきいます。
(もちろん、マネはしちゃいけません。)
そしてある時、マリアナ海溝の水を貰える機会があり、試しに味の感じ方を確かめてみることにしました。
マリアナ海域は人の生活圏から離れており、生物の栄養になるプランクトンが少ないく、それを捕食する大型の生物も少ないため、水がとてもキレイです。
↑ 足元の青い海には水深11,000mのマリアナ海溝が広がる
じゃあ、そんなキレイな海の水は味が違うんだろうか?と言う探求心が湧いてきます。
海洋調査ではニスキン採水器と言うバネで蓋が閉まるボトルを深海に沈めて、各深度から採水した海水を分析することがあります。
↑ ニスキン採水器の一例
採水は大型のフレームに何本ものボトルを取り付けて、ワイヤーとウインチを使って船から深海へと降ろします。
最深部に到達したら、今度はワイヤーを巻き上げながら、採水したい深度でボトルのフタを閉めて船上に持ち帰ります。
(ボトルのフタは船上のスイッチを押すと閉まる仕組み)
マリアナなど頻繁に調査が出来ない海域では、多くのサンプルを得るために航海中に何度か採水が行われます。
↑ 採水ボトルが何本も取り付けられたフレーム
例えば、大型のフレームには24本もの採水器を取り付けることができ、水深11000mの超深海から500m間隔で採水することが可能です。
採水ボトルは小さい物だと2リットル、大きいものだと数十リットルが採水可能です。
↑ 船に上がってきたサンプルは即座に研究者さんが取り分ける
しかし、これらを全て持ち帰って保管するのも大変ですし、日数が経てばサンプルとしての鮮度も落ちます。
そのため、研究者さんが取り分けて残った海水は廃棄するのですが、捨てるならと少し分けて貰いました。
沖縄の海は東日本に比べて塩分濃度が高いと小学校で習って来ましたが、どんな味がするのでしょうか?
ましてや沖縄をはるか通り越したマリアナの水とは・・・?
まずは最深部の海水・・・水道水に食塩を溶かしたような味。子供の頃、歯が抜けた時に消毒用に作って貰った食塩水のような味で雑味ゼロ!
続いて1000m間隔で確かめて行き、大きな変化があったのは水深1000m付近からでした。明らかに海水浴場のような味で雑味が強いのが分かります。恐らく、深海に比べてプランクトンなどが比較的多いのだと思います。
実はこの経験からさらに数年後に分かったことがあり、プランクトンの種類(動物性か植物性)によって味が変わるようで、南極の湖に出来る氷も味が違うことが分かりました。
(このお話しはまたどこかの機会で。)
人の五感と言うあいまいな方法のように思うかもしれませんが、官能検査では五感の鋭さが求められます。
いつかこの経験を活かした何か面白い研究が出来たときには、またここで皆さんにお届けしたいと思います。
↑ アリアナの満月。他の光がないため水平線までくっきり明るい