南極と超深海の両極地で、実際に自分の手で水中ロボットを潜らせてきた研究者による「実話」をご紹介するブログ。
そこで!役に立つのが「音波」です。
昔から潜水艦の映画などに出て来るので、聞いたことがある人も多いと思います。また、クジラやイルカが仲間同士で通信する「エコーロケーション」や、「しんかい6500」などの潜水調査船が母船に位置を知らせるのも音波です。
音波は、水中で急速に減衰する電波や光と異なり、遠くまで伝搬する性質があります。
その距離、約5000km以上!
ヒゲクジラ類は、アラスカ沖からハワイ沖まで鳴き声で通信していると言われています。
そんな音波を使って海中を可視化しようとする技術が魚群探知機やソーナーです。
↑ 一般的な魚群探知機の探知画面
(音の反射が強い部分の色が濃く表示される)
水中を伝搬する音波は、1秒間に1500m(※)も進むため、対象との距離を正確に把握することが出来ます。
(※水温、深度などによって変わります)
近年ではコンピュータ技術の進化により、海底を面的に捉えるサイドスキャンソーナーや、3D表示ができるマルチビームソーナーなどさまざまなものが開発されています。
↑ FURUNO製の最新式3Dソーナーの探査画面
↑ GARMIN製のサイドスキャンソーナーの探査画面
これらのソーナーの良いところは、広い範囲を短時間で調査できる点で、水中調査の効率が飛躍的に向上しました。
近年では水産高校でもサイドスキャンソーナーを使って海底調査を行い、特異点を見付けると水中ロボット(ROV)で確認しに行く実習が行われており、水中調査にとって不可欠な存在と言えます。
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ところが・・・
日本の排他的経済水域(EEZ)は世界第6位と言うのは、もう新聞でも見飽きた数字かもしれませんが、じゃあ沿岸の総延長は?と聞かれると知らない人が多いと思います。
日本の沿岸の総延長距離は約35,000kmで、地球の赤道周囲が40,000km、南極・昭和基地まで14,000kmであることを考えると、その凄さが分かります。
さらに47都道府県の内、39都道府県が海に面しており、我々の生活に身近な存在と言えます。
つまり、日本は沿岸大国なのです。
↑ 飛行機に乗ると入り組んだ沿岸の形状が良く分かる
そんな沿岸を詳細に調査するのは一苦労どころじゃありません。最近では、北海道の小島が気付かない内に海中に消えしまった可能性がニュースになっていましたが、全ての沿岸を常に把握するのはとても難しいことなのです。
特に、海の中は海上からも人工衛星からも見ることが出来ません。
そのため、水産庁や海上保安庁が船舶により海底の様子をときどき調査していますが、入り組んだ場所や浅瀬には船舶が近付くこと出来ず、思うように調査が進まない海域もあります。
しかし、そんな身近な海ですが、近年、問題となりつつあるのが「海のルール」で、我々研究者もこのルールに従って海で研究を行っています。守らないとどうなるか?すぐに海上保安庁や水上警察がやってきて逮捕されます。
港には船の通行を妨げてはいけないルールがあり、これを逸脱する人は違法行為とみなされます。最近はコロナ禍で人気の釣りも、気を付けないと逮捕される可能性があり注意が必要です。
ところが、世界ではもっと厄介な事態になりつつあります。
それは、水中からの侵入者です。
日本では古くから密航や密漁の被害があり、海の近くに住む人は水中に対して警戒心を持っていました。そのため、漁業が盛んな地域や人の目が少ない沿岸域は、警備が重点的に行われています。
しかし、近年、水中スクータや水中ドローンと呼ばれる小型の機器がインターネットで手軽に買えるようになり、水中からの侵入方法が多様化しつつあります。
そのため、これらの脅威を事前に探知し、テロを未然に防止する方法として「音波」の利用が検討されています。
「水中セキュリティ」と呼ばれ、海外でベイエリアにある原発や空港、イベント会場などでの安全対策に活用されています。
しかし、日本では水中セキュリティの存在があまり知られておらず、まだ実用化(導入)されていないのが実情です。
このままでは、漁業や沿岸の重要施設にいつ被害が出てもおかしくありません。
今後、東京オリンピック(TOKYO 2020)や大阪万博(EXPO 2025)など、ベイエリアでのイベントが増える「沿岸大国・日本」。
水中音響を活用した安全技術の発展が期待されます。