南極と超深海の両極地で、実際に自分の手で水中ロボットを潜らせてきた研究者による「実話」をご紹介するブログ。

 

今回は、「北極研究の最前線!」と題して、日本が取り組む北極研究にスポットを当てたいと思います。

 

これまで、南極観測隊としての経験から、南極にスポットを当てて来ましたが、実は日本は北極研究も盛んです。

その理由の1つに、日本が北半球に位置するからアクセスが容易ということが挙げられます。

 

ここで、皆さんが北極と聞いて思い浮かぶのは、「温暖化の影響で、夏場に氷が無くなってホッキョクグマが危機!」と言ったニュースではないでしょうか?

 

確かに、2020年7月には、人工衛星による観測を始めて以来、最も海氷が少なくなりました。

さらに、学術誌「Nature Climate Change」に掲載された論文では、2035年には完全に北極の氷が無くなってしまうと予測されました。

 

北極にはホッキョクグマやイッカクなどの生物だけでなく、沿岸域では人々が生活をしている地域もあります。

 

そうした地域では温暖化の影響により海氷や氷河が崩落することで津波が起こる危険性も指摘されており、当研究室でも人工衛星を使った変動解析と予測研究を進めています。

 

しかし、人工衛星では海洋の奥深くの変動を捉えることは困難です。

 

そのため、これまでの北極観測では「みらい」と言う観測船を使った調査が行われてきました。

↑ 海洋地球研究船「みらい」

 

1996年から運航されてきたこの船、見覚えある人もいるかもしれません。

実はこの「みらい」は、リユースされた船で、以前は「むつ」と言う名前で、1969年に竣工した日本初の原子力船でした。

 

「むつ」の建造は、本学からもほど近い東京都・豊洲にあった石川島播磨重工業で行われました。

 

しかし、度重なる放射能漏れのトラブルに見舞われ、1992年にその役目を終えました。

↑ 船の科学館に展示されていた「むつ」の模型

 

そのため、現在の「みらい」は、「むつ」の竣工から数えると約半世紀が過ぎています。

そこで、新しい北極研究船を作るプロジェクトが2021年からスタートしました。

 

全長128メートル、総トン数13000トン、総工費335億円¥だそうです。

 

運航時期は4月~12月と言うことで、主に夏~初冬にかけての運航を見込んでいるようです。

↑ 新しい北極研究船の予想図 (出典:JAMSETCホームページ)

 

この図を見ると、南極観測船「しらせ」を思わせる船首形状をしています。

 

歴代の南極観測船でもこの形状が採用されており、特に分厚い氷を割って進む「砕氷航行」の際に威力を発揮します。

 

現在、自衛隊が運用する「2代目しらせ」では喫水線に対し19度、先代「しらせ」は21度、「ふじ」は30度となっています。

 

現在の「しらせ」は厚さ1.5mの氷を速力3ノットで割りながら航行することが出来ます。

↑ 現在の「しらせ」の船首形状

(模型:小西製作所 1/500)

 

↑ 3代目南極観測船「しらせ」の船首形状

(模型:ニチモ 1/450)

 

↑ 2代目南極観測船「ふじ」の船首形状

(模型:ニチモ 1/300)

 

しかし、いくら氷が薄くなる夏期間の南極と言っても、多年氷帯と呼ばれる1年中、分厚い氷が海面を覆う海域では思うように進めません。

 

そこで、この特殊な船首形状が役に立ちます。

分厚い氷で進めなくなると、船を一旦、後進させて勢いよく氷に突っ込み船首部分を氷に乗り上げさせます。そして、船の自重で氷を割る。

 

これを「ラミング航行」と言います。

 

つまり、上図の新しい北極研究船でも分厚い氷を割って進む「ラミング航行」を念頭に置いた調査航海が検討されていると言うことが分かります。

↑ 「しらせ」のラミング航行の映像

 

果たして、15年後、北極海から氷が完全になくなるという論文が正しいのか?!

(燃料を消費するラミング航行しなくて良くなる?!)

 

それとも、我々がCO2を減らし温暖化を抑制して、再び夏の北極海にこれまでのような氷で覆われた景色が戻ってくるのか?

 

この新しい研究船の成果に期待が寄せられています!