南極と超深海の両極地で、実際に自分の手で水中ロボットを潜らせてきた研究者による「実話」をご紹介するブログ。
今回は「水中のハチとは?」がテーマです。
このブログでも話題に取り上げる有策式の水中ロボットですが、当研究室では一貫して「ROV(Remotely operated vehicle)」と呼んでおります。
※水中ロボットはROVの他に、有人潜水船(HOV)、自律型無人探査機(AUV)などがあります。
しかし、授業や講演会では、「水中ドローンとは何が違うのか?」という質問をよく受けます。
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これは、答えを言ってしまえば
「同じもの」です。
ただ、決定的な違いがあり、我々、海の研究者は「ROV」と呼びます。
では、ROVとは何なのか?を説明すると、これは、水中に潜るロボットと操縦するコントローラがケーブルで結ばれたロボットを指します。
↑ ROVのシステム概略図
ケーブルには信号線や動力線が束ねられており、ロボットに搭載されたカメラを通して時々刻々変化する水中の様子をリアルタイムで確認することが出来ます。
また、コントローラーから制御信号を送ることで、ロボットに取り付けられたスラスター(推進器)を動かしてロボットを航走させたり、マニピュレーターを使って海底で作業をしたりすることができます。
↑ 当研究室で運用する800m級の中型ROV
では、ドローンとは何か?と、言うと、そもそもは空中を飛ぶ飛行体を指す言葉で、「Drone」はハチの羽根がブーンと鳴ることを意味しており、飛行体のプロペラが風を切る音に似ていることに由来します。
あれ?じゃあ水中ドローンは?
そう。これが決定的な違いなのです。
水中で水を切るスラスターはブーンとは音を立てません。スラスターの種類(電動or油圧)やプロペラの大きさによって周波数や音圧は全く異なりますが、ROVが完成した際に行う水中雑音試験でハイドロフォンを入れて聞いてみると、電動式だとモーター制御のキィーンと言う高い音だったり、油圧式だとグゥオングゥオンと言う低い音だったりします。
↑ROVのスラスター(電動式)の例
「どこがハチ(Drone)やねん!」
と、ツッコミを入れたくなるのも分かります。
じゃあなぜ?「水中ドローン」なんて言葉が出てきたのか?と言うと、これはマスコミやROVを知らない人たちが作った新しい言葉です。(一般に分かり易くするためという後付けの理由など諸説ありますが)
なので、どちらも同じもの。
だけど、研究者とは自身の研究に正確性やエビデンスを求められる仕事。そのため、「水中のハチ」という、月刊ムーに出てきそうな言葉は使わず、「ROV」と呼んでいます。
ここの読者さんは、ぜひ「ROV」と呼ぶようにしてみてください。
すると、海の研究者に出会ったときに、「オヌシ!デキるな!」と、思われるかもしれません。