南極と超深海の両極地で、実際に自分の手で水中ロボットを潜らせてきた研究者による「実話」をご紹介するブログ。

 

今回は「南極調査用 水中ロボットの開発」がテーマです。

 

2017年~2018年に実施した南極湖沼調査では、水中ロボットを使った湖底の生物マッピングに世界で初めて成功しました。

今回はその調査の裏側で活躍したG-SHOCKの共同開発についてご紹介します。
 
 
極限環境の南極湖沼に生物?と、よく聞かれるのですが、昭和基地から南へ60kmほど行ったスカルブスネスという場所にある湖には、コケボウズと呼ばれる生物が群生しています。
 
↑南極大陸の湖に棲息するコケボウズ
 
当研究室では、このコケボウズの深度ごとの分布状況を調べるハビタットマッピングを行うための水中ロボット(ROV)の開発を行い、実際に南極まで行って運用を行いました。
 
南極でのROVやAUVを使った調査は、海外では当たり前に実施されているのですが、多くは雪上をスノーモービルで運搬したり、船から投入したりするので、所謂、市販の水中ロボットを使うことが出来ます。
 
しかし、今回、当研究室のミッションは、「雪のない岩場(露岩域)を登って調査地に行く」「調査物資やビバーク用品は人が背負って歩く」「だから調査物資は10kg以下」「初心者でも誰でも扱える」「とにかく安く!」ということを念頭に置いたROV作りでした。当然、市販のROVなんて使えません。
 
そこで、文字通りゼロから開発することにしました。これまでマリアナ海溝に潜る深海探査機や海底資源を調査する重作業用の水中ロボットを開発・運用してきたので、当初は南極の湖に潜るくらいならと安易に考えていました。
 
しかし、実際に設計を始めると信じられないほど多くの技術課題に直面!しかも解決の糸口が完全にない課題も多々あり、これまでの深海探査のノウハウが通用せず、完全に暗礁に乗り上げました。
 
その中の1つが航法計器でした。水中ロボットはGPSなどの電波が届かないため、通常はロケットなどにも使われる慣性航法装置などを使って自機の状態を把握します。小型で安価な装置も売られていますが、装置を増やすことはシステム全体の大型化と複雑化に繋がるうえ、実は運用時間の経過と共に計測誤差が出てしまうというデメリットもあります。
 
そこで目を付けたのがG-SHOCKでした。たまたま別件で打ち合わせ中に、過去に作ったROVに応急処置でダイバー用のコンパスを付けた話をしたところ、G-SHOCKに置き換えれないか?という話になりました。
 
しかも、当時、CASIOでは、方位・水深・水温が分かる最新のFROGMAN(GWF-D1000)が開発中で、これをROV用に改造して使えないか言う話になりました。
 
実は筆者は20年近く前からCASIOのPRO TREKを愛用していたこともあり、以前、同じことを考えていたのですが、水中で使うには一番大きな問題「計測時間」の壁がありました。
 
G-SHOCKやPRO TREKの方位計は、計測開始のボタンを押してから数秒~十数秒で計測が終了してしまいます。これでは深海まで行く前に計測が止まってしまいますし、深海で再びボタンを押すのは至難の業です。
 
そこで、CASIOさんと共に開発を行い、計測時間などの制約に縛られず、1秒毎の方位を表示可能なROV用G-SHOCKの開発に成功しました。
 
そして、これを付けたROVで、いざ!南極の湖へ!
 
 
ミッションは見事に大成功!新たな南極湖沼の調査手法の確立に貢献しました。
 
 
そして、この偉業を記念してCASIOから南極調査用ROVモデルとして2019年10月にはFROGMAN GWF-D1000ARRが発売となり、まさに産学連携が実を結んだモデルケースとなりました。
 
 
 
当研究室では次期南極調査に向けた新たなROV開発が山場を迎えており、この航法デバイスにはどんなG-SHOCKが付くのか?!またいつかご報告できればと思います。