日曜日。昼下がり。

 

 何気なく出かけた私の耳に、静かに雨音が響いている。

 

 梅雨の最中、今日の空はやわらかく晴れ間を見せた。雨は降っていない。

 

 街は雑然として様々な音が交差しているけれど、BGMのようだ。

 

「そんなに働いてたら倒れるよ?」

 

 心配してくれる友達の声。

 

 わかってる。それでも、大掛かりなプロジェクトの遂行に必死で、不眠不休のような毎日だった。

 

 ようやく、数ヶ月ぶりに休みが取れて一息入れたのが今日。三連休をもらったけれど、さすがに昨日は一日中寝てしまった。

 

 体のリフレッシュは出来ても、心までついていくのは難しい。

 

 必死で働いてたのはね。あの人を忘れたかったから。

 

 視線の向いている方向が違うから、離れざるを得なかった、それでも大切な人。

 

 嫌いになったわけでもなければ、嫌われたわけでもない。

 

 それでもどうしても、共に生活するのは難しいという結論。

 

 またね。元気でね。

 

 ―――叶うなら、生まれ変わったら、なんて。

 

 未練がましい言葉は飲み込んで。

 

 本当は何もかもかなぐり捨てて、あの人の胸に飛び込んでいけたらよかったのに。

 

 どれだけ後悔したかわからない。

 

 忙しくて紛らわてせた思いが膨れ上がってきて、雑踏の中、私は立ち尽くした。

 

 広い駅で、ロータリーになっている噴水の前に座る。

 

 さぁ、っと背中から聞こえた水の音が、雨みたいだ、と思う。

 

 太陽を隠して、哀しみを洗い流す、雨の音に癒されるように。

 

 少しずつ心が静かになる自分に気づいていた。

 

 ほんの少しの勇気を呼び戻して、小さな、けれど大きな決意を持って立ち上がった時。

 

「―――――ナオ?」

 

 聴き慣れた、でも懐かしい、そしてこの数ヶ月渇望していた声が。

 

 今まさに逢いに行こうと思っていたあの人が、向こうから走ってくる。

 

「会社に行ったら休みだって聞いたから…ここで逢えてよかった」

 

「コウくん…どうして」

 

「俺、やっぱりナオがいないと駄目だよ。だから、もう一度やり直せないかと思って」

 

 そう言う彼の声はどこか清々しい。

 

「私も、そう思ってた」

 

 自分でも驚くくらいの優しい気持ちになった。

 

「…よかった、笑ってくれて」

 

 そう言う彼もとびきりの笑顔になって、私たちは何となく手を握りあった。

 

 梅雨の晴れ間、哀しみを洗い流す雨の音が、どこかで静かに聴こえ続けていた。 

 

 

 

 

 

 

                                Fin