引っ越してきて新しく借りた古い一軒家は、築年数の割にモダンな造りになっていて、広めのリビングの上にハイサイドの明かり取りの窓がある。
片づけもまだ終わらない休日の午後、新調したソファに座って、俺はその窓から見える切り取られた空を、ずっと見ていた。
(今日も青いな)
何日も続く晴天とは裏腹に俺の心はずっと曇天だった。
急に決まった転勤で、俺は一つの決心で彼女を訪ねた。
「ついてきてほしい」
その言葉に彼女は一瞬目を見張り、それから戸惑うように目を泳がせた。
それが答えだと思った。
それ以上何も言えず、そのまま帰り、以降まったく連絡を取らなかった。引っ越しの日も告げなかった。
怒ったわけじゃない。
本当は、わかっていた。
彼女が、自分の仕事に誇りと生きがいを持って働いていることを、知っていたから。
そして今は、仕事が楽しくて仕方なくて、充実した毎日を送っていることを、知っていたから。
だから、自分の願いが叶わないことに、勝手に傷ついたのは俺だ。
それでも。
知らない土地で新しい生活を始める時に、彼女にそばにいてほしいと思ったのも事実だった。
ぼうっと、ソファの高い背凭れに首を預けて、四角い青空を眺めている。
時折、形を変え現れたり消えたりする白い雲が、風の流れを教えてくれる。
こんな風に、時を重ねていけたらと、願っていたんだ。君と。
ハイサイドの窓は、部屋の中に光を入れる目的なのだろうけれど、小さな箱の中で小さな悩みにとらわれる小さな俺を覗き込んで、神様が小さく笑っているような気がした。
そう思って、不意に泣きそうになった。
モダンな造りの家はチャイムの音もどこかレトロで、やわらかくて、遠くで鳴っているような気がした。
何度目かのチャイムではっと気づき慌てて立ち上がる。
そうだ、こういうものも全部ひっくるめて、彼女が好きそうなものばかりを選んだんだ。
当然インターフォンなんてなくて、大家さんかも、とドアを開ける。
そこに彼女が立っていた。
「…どうして」
「調べたら、こっちにも支店があって…移動願いを出したよ」
にっこりと笑っているのに、彼女の目は真っ赤に濡れていて。
「…遅ぇよ」
ふてくされたように素直じゃない俺も、言葉とは裏腹に次の瞬間には彼女を抱きしめていた。
ハイサイドの窓から、神様がやさしく笑った、気がした。
Fin