一条圭一郎という男は佐々木孝枝の予想に違わず、マメな男だった。
アドレスを教えて以来、毎朝昼晩の3通のメールが届いた。
何度もメールのやり取りをするではなく、1通に用件の全てを書き込み、2通目が必要ないようにした。
個人的なことに深入りせず、自分の望む2人の関係については明言しない。
詳細は会ってから、そんな感じだった。
最初のデート(?)はボウリング場だった。
小学生のころ、親に連れられて行って以来だから、訪れるのは10年ぶりぐらいだ。
一条の方は大学時代に毎週のように通ったそうで、なかなかの腕前らしい。
マイボール、マイシューズも持っているという。
待ち合わせ場所には学生時代に通ったのと同じスタイルだと言う圭一郎の姿があった。
そこで待ち合わせるだけだと思っていた孝枝は、短めのスカートにラメをあしらったシーム入りストッキング、
上は背中が大きめに開いたニットセーターという装いだった。
「え?ボウリングするの?」
「しないんですか?せっかくだからやりません?といっても、そのカッコじゃ…」
「これじゃ無理ですよぉ」
と苦笑いしていると、圭一郎は事も無げに言う。
「じゃあ、お近づきのしるしにプレゼントしましょう。場内にショップあるから」
と、どんどん先に立って歩いて行く。
レーンの一角にあるショップに係員を呼びつけると
「この人に合ったウェアを見繕ってよ」と声をかけた。
ウェアとスカート、ソックスを用意させると、包みを孝枝に手渡し、
「更衣室はあっちです」と指差した。
圭一郎の有無を言わせぬ素早い行動に口を挟む余地のなかった孝枝は、勢いのままに更衣室へ向かった。
着替えながら、(明日は筋肉痛だなぁ)などと考えていた。
しかし、出会った相手から金品を頂くのが目的だった孝枝にとっては、
すでに目的を達したのでは?という思いもあった。
圭一郎の腕前はかなりのものだった。
100点そこそこの孝枝の倍以上のスコアを軽々と出したが、
「今日はターキーが出なかったから、250を超えなかったなぁ」と不満そうに言った。
2ゲーム投げたあと、汗を拭いながら、
「さて、汗かいたら次は食事ですね。何を食べましょうか?」と聞いてきた。
着替えたウェアを地下駐車場にとめた自分の車の助手席に投げ込んだ孝枝は
「車、ここへ置いておいて大丈夫?」と圭一郎に尋ねた。
「ええ。僕の方から支配人に言っておきます。ちょっと親しいんで」
圭一郎のアウディは孝枝の車の3台ほど奥に駐車してあった。
車の中は微香性の芳香剤の香りがした。
「実は、婚約者がいるんですよ」
車の中で圭一郎があっさりと告白した時の孝枝は、口を半分開けたまま、しばらくフリーズした。
「え、何でそんなこと言っちゃうんですか?黙っておけばわからないのに」
「いやいや、騙し通せるワケないよ。それに、最初からわかってた方が付き合いやすいでしょ?」
この男は何を考えているんだろう、という思いと、これで気楽に付き合えるという安心感が同時に湧いた。
「婚約者は婚約者、自分の楽しみは自分の楽しみ、ってことで、今後ともよろしく」
あっけらかんと言われると、あえて逆らう気にならなかった。
それに、この男、かなり金回りが良さそうだと踏んだ。
孝枝の思った通り、その夜の食事も、少しだけ寄った高級そうなバーのボトル代も、
全て圭一郎がカードで支払った。
たぶん、孝枝の1ヶ月分の小遣いよりも多い額が一晩で消費されたはずだ。
「車は置いておいた方がいいよ。少しとはいえ飲んでるし」
圭一郎に言われ、送ってもらうことになった。