ソラニン 1 (ヤングサンデーコミックス)/浅野 いにお
¥530
Amazon.co.jp

ソラニン 2 (ヤングサンデーコミックス)/浅野 いにお
¥530
Amazon.co.jp

大学の軽音サークルで知り合った井上芽衣子、種田成男、加藤、山田、山谷の5人は、大学を卒業して2年経つ。

今でも何かと集まって学生ノリで騒ぎまくっている。

それぞれの道を歩み、ゆったりした幸せはありつつも、不安や不満が影をもたれる日々。

イマというだらりとした日常から抜け出したいけど、そんな勇気もないまま、時間は刻々と過ぎていく…。

夢を追いかけるだけの子どもでもなく、現実に適応するほど大人でもない。そんなモラトリアムな日々を送る若者の閉塞感や日常、心情をリアルに描いた青春マンガ。


浅野いにおが2005年から2006年まで『週刊ヤングサンデー』にて連載していたマンガ。

【内容に触れてます】

芽衣子は透明な存在だ。

流されやすいどこにでもいそうな女の子。

恋人の種田の存在が自分を支え、家族や仲間の存在が自分を励まし慰める。
一言でいえば、孤独を知らない幸せ者。
彼女は仲間以外の他人を批判し、不平不満を言って、自分の輪郭を確かめている。
社会や大人を見下して、自分を高めている。

そのくせ、ひとりじゃ言いたいことも言えない。
自分が何をしたいのかなんてわからない。
そして、わからないまま仕事をやめる。

仕事から解放されて得た束の間の自由も、ひっかかりもなく流れるように過ぎ去る時間に焦りや不安感が募る。

恋人の種田は夢のはずの音楽に向き合わない。バイトに追われ、言い訳ばかりで夢から逃げる。

それを芽衣子は不満に思いはじめる。

自分自身の見たくない部分を、彼に見させられるのが辛くてたまらないように。

芽衣子「種田はいつも逃げてばっかり。種田は誰かに批判されるのが怖いんだ!大好きな音楽でさ!でも、褒められてもけなされても、評価されてはじめて価値が出るんじゃん!?」

種田「ダメだったらどうしてくれるの?一緒に死んでくれるの?」

芽衣子は種田にはじめて詰め寄り追い詰める。

芽衣子は種田に自分の存在を託している。

自分自身には夢はない、仕事もやめている。

種田だけが芽衣子の希望の光だ。漠然とした不安を静めてくれる存在だ。

種田は仕事も辞め、すべてを投げうって『ソラニン』という曲をレコーディングし、レコード会社などに送るが、どこにもひっかからない。

しばらくして種田は消息を絶つ。

彼は彼女の存在が重くなり、押しつぶされそうで苦しみ悩む。

そして契約社員として働きながらミュージシャンという夢はあきらめ、趣味としてバンドを続けるという現実的な選択をして、電話で芽衣子にふたりで幸せになろうと言い、丸ごと包み込む。

電話を切った後、種田は男泣きをする。

そして彼女の待つアパートへの帰り道、彼は帰らぬ人となってしまう。

種田が事故死したあと、荷物をとりにきた種田の父の言葉をきっかけに、「彼の存在を証明するために歌いたい」という想いが芽生え、加藤、山田とともに、亡き種田の残した曲『ソラニン』をギターのコードを覚えるところから練習し、たまたま舞い込んだライブで全身全霊とりつかれたように『ソラニン』を歌う。
それは自分を証明することと通じていた。

「わたしはここにいる!おれはここにいる!」

芽衣子は種田を自分の中に取り込んだ。一体化した。

そして自分のアイデンティティにした。

そのとき、透明じゃない、取り替えのきかない自分を確かに感じた。

種田に対する喪の作業。芽衣子自身の通過儀礼。

芽衣子は曲が終わればまた変わり映えのしない日常に戻る。

その時、彼女の見る世界はどう見えるのか。

作品は引っ越すシーンで終わるが、芽衣子はすがすがしい顔をしている。けろっとしている。

今までのように、みんなといられればそれでいいと、心でつぶやく。

僕はそこにリアリティーを感じた。

芽衣子と種田は6年という歳月を共に過ごし、喜怒哀楽を味わい暮らしてきたのに、ほとんどお互いの想いや考えをぶつけることはなかった。

少しでもぶつかれば壊れてしまいそうな、崩れてしまいそうな関係。

長い時間を積み重ねてるはずなのに、積み重なっていかないような関係。

いつも笑いは絶えないが、どこか不安が付きまとう関係。

優しいが、どこか物足りないと感じてしまう関係。

現代を生きるかなりの人に思い当たるものがあるのではないか。

僕も含めて。

FRAGILE-芽衣子と種田
 

『ソラニン』の歌詞

思い違いは空のかなた

さよならだけの人生か

ほんの少しの未来は見えたのに

さよならなんだ

あの時こうしてれば あの日に戻れれば
あの頃の僕にはもう 戻れないよ
 
昔 住んでた小さな部屋は
今は他人が住んでんだ
君に言われた ひどい言葉も
無駄な気がした毎日も
寒い冬の冷えた缶コーヒーと
虹色の長いマフラーと
小走りで路地裏を抜けて
思い出してみる
あの時こうしてれば あの日に戻れれば
あの頃の僕にはもう 戻れないよ
 
たとえば ゆるい幸せが だらっと続いたとする
きっと悪い種が芽を出して
もう さよならなんだ
あの時こうしてれば あの日に戻れれば
あの頃の僕にはもう 戻れないよ
 
さよなら それもいいさ
どこかで元気でやれよ
僕もどーにかやるさ
そうするよ



注:ソラニンとは。
ジャガイモの表皮・芽などに含まれる毒の一種。
多くを摂取すると中毒症状を起こすが、その植物が成長するために必要不可欠な成分とされる。