もうこうなったら蜂谷作品、制覇しちゃうぞ!!( ̄Д ̄)ノ オウッ
 
・・・てなわけで、またまた蜂谷涼さんの近代日本に生きる小樽の女の物語。
 
 
小樽の港の桟橋にほど近い場所にある「なぎさビヤホール」で女給として働く”りう”。
 
りうの父は大網元で、大きな屋敷を持ち、多くの奉公人を雇っているような人物である。
 
りうは、そんな父が外に作った子供であった。
 
母の死後、父親のもとに身を寄せたりうは、義母のふよに亡くなった娘の代わりのように大事にされ可愛がられていた。
 
父と義母の間には、長男・祥太郎と次男・康次郎がいて、りうの義兄ということになる。
 
中学へ通うため町中に下宿している次兄は、親に平気で嫌味じみた言葉を吐ける男なのに対し、肺病で離れに隔離されている長兄の祥太郎は、詩が好きで穏やかな優しい兄だった。
 
りうは親ですらその回復を諦めた祥太郎の介護をするようになるが、やがて義母・ふよの逆鱗に触れる事件が起こり、杉田の家を出ることになってしまう。
 
りうが働くビヤホールには、小樽の築港に心血を注ぐ人々もやって来る。
 
中でもりうの心を捉えたのは荻原という築港事務所の所長を務める男だった。
 
荻原は穏やかな紳士で、責任感が強く、真面目な仕事ぶりを慕う部下も多い。
 
ある大吹雪の夜、遠くの町で身動きが取れなくなっているらしいと聞いていた荻原が、衰弱しているところをりうが助ける。
 
高熱でうなされ、一向に下がる気配の無い荻原の身体を、りうは裸の身体に冷水を浴び、抱いて冷やすことを繰り返して介抱した。
 
目を覚ました荻原とりうは結ばれる。
 
しかし荻原には資産家の娘である妻がいる。
 
その後、りうに会っても素っ気ない荻原に、人知れず身を焦がすりう。
 
やがてりうは女ながらに荻原のいる築港事務所で男に紛れて働くようになる。
 
りうのもとに死病からすっかり回復した祥太郎が現れ、りうを利用して荻原に取り入ろうとする。
 
築港工事の責任者である荻原には、工事に関わり利益を得ようとする輩がたくさん近付いて来たが、荻原がそんな賄賂に屈する男ではないということを知っていたりうは、祥太郎の申し出を断る。
 
祥太郎の登場は荻原の心を揺るがし、彼をりうのもとに走らせてしまう。
 
しかし、その結末はひどく切ないものになってしまった・・・。
 
 
蜂谷作品、久々に一人のヒロインだけにスポットライトを当てた作品で、とても感情移入がしやすい作品でした。
 
「なぎさビヤホール」に勤める前の奉公先から一緒だった、りうの親友ともいうべきキサが、その人柄を買われて大店の若御内儀になり、それまでと変わらないと思っていた友人関係にヒビが入るところなど、キサの変化に腹が立つものの、身よりも無く、後ろ盾のない女が大店の内儀として生きていくためには、捨てなければならないものや守らなければならないものがあるということには、嫁の立場を知る者としては理解できる気がしました。
 
ウソをついて遠ざけようとするのは感じが悪かったですが、その思いも仕方ないと諦めるりうは、フトコロの深い女性だと思いました。
 
ラストの一行で救われた思いでした。
 
できたら、その後が知りたいお話です。
 
このお話に登場する日本初のコンクリート製外用防波堤は、今も小樽の港を守り続けているそうです。
 
ちょっと見てみたくなりました。
 
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