女と男の出会いはホテルの一室だった。
来実子(くみこ)は初めて娼夫を買った。
男が約束の時間に遅れている間に来実子は迷い、そのまま立ち去ろうとしているときに、男と出くわしてしまった。
金だけを払って帰ろうとする来実子に、どうしても納得のいかない男。
以来、彼は来実子に付きまとうようになる。
三十六歳独身の来実子は、同時に付き合っていた二人の男たちと別れ、家も引っ越した。
新しい出発を決断するとき、来実子には背中を押してくれる何かが必要だったのだ。
娼夫を呼んだのも、そう思って選んだ手段に過ぎなかった。
少しずつ近付くようで近付けない二人には、お互いに「娼夫のようなアルバイトをしている男のくせに」、「娼夫を呼ぶような女のくせに」という思いがあり、近付くのを邪魔していた。
亡き両親が暴力を振るいながら罵り合い、ケンカする様を見て育った来実子。
家庭の主導権を握り、自信に満ちあふれた母親に支配されてきた二十三歳の大学生・由貴(ゆたか)。
好意と嫌悪の狭間に奇妙な駆け引きもあり、理解できるようで難しい二人の気持ちは「どうなるのか?」と思いつつ読んだものの、ラストまでクライマックスが来なかった。
そもそも「娼夫」という言葉に違和感。
「金を払って買う男」と書き直したり、文中の由貴の言うところの「短時間で高給。性欲を持て余した若い男の実益を兼ねる」仕事に「売春婦=春を売る女=娼婦」と同意のものを感じない。
来実子にも全く共感できず、御託を並べるだけの二人のやりとりがめんどくさかった。
