「鬼ごっこ」 「雪間草」 「寒い灯」 「疑惑」 「旅の誘い」 「冬の日」 「悪癖」 「花のあと」の八編。
迷ったのですが、「花のあと~以登女お物語」をご紹介しようと思います。
武家の老女・以登が孫たちに昔語りをしている。
十八の頃の以登は醜女というほどではないが、さして美しくもない娘だった。
桜の花が満開の頃、花見に出掛けた以登は、羽賀道場の逸材として剣名の高い、江口孫四郎と出会う。
五つのときから父に竹刀を持たされ剣術に励んだ以登は、嫁入り前に羽賀道場で試合をしたことがあったが、そのとき江口孫四郎と試合をすることができなかった。
花の下での出会いは、それから二月ほど後のこと。
孫四郎に恋心を募らせつつも以登は決まった相手と結婚するしかなかった。
そんなとき孫四郎が自害してしまう。
孫四郎の妻の結婚前からの悪い噂、それを裏付けるような現場を目撃した以登は、孫四郎の無念を晴らすべく仇討ちを企てる。
思い人とはいえ、お互いに思いを語り合うことも無く、別々の人生を生きる以登と孫四郎。
それでも老いてなお、以登の心に生き続ける淡い初恋の思い出。
しかし美しいだけでは済まなかった思い出は、花の季節を寂しいものにしてしまったのだった。
