「かわうそ二匹」 「藤かずら」 「抱え咲き」 「名残闇」の四編。
先日拝読した作者の著書が面白かったので、今回三冊も借りて来てしまいました。
この四つの物語は一見別々のお話のようですが、妙な具合に繋がっていることが最後になってわかります。
明治時代の女性を描いた物語で、女の業のようなものを描くのがとても上手な作家さんだと前回も思いましたが、今回も、その時代ならではの女性の生き様というのもあるのだけど、女の中にある深い業は、いつの時代も同じかもしれない・・・と思う部分も多々ありました。
その中で、一編「藤かずら」についてお話します。
りつは会津の枡田屋という醤油・味噌を商う商家に嫁いだが、夫の弥太郎は戦死。
わずか一年余りの結婚生活よりも、未亡人となってからの日々の方が長くなってしまった。
息子の勝一郎の顔も見ずに逝った夫の面影も薄らぐ中、実家もとうに無いりつは、枡田屋で身の置き所の無い暮らしを過ごすしか無かった。
舅・忠之助と姑・ツネ。
跡取りの居なくなった実家に銀行を辞めた夫・幸作を連れて帰った義妹・富枝。
いかず後家の義妹・雪枝。
かしましい姉妹の言葉は、棘を持ってりつに刺さり、大勢の使用人たちの視線までもが、りつには痛い。
まだ、よちよち歩きの息子の勝一郎には姑のツネがべったりで、片時も放さない。
りつは勝一郎のおしめだけは誰の手も患わせずに自分で始末していた。
勝一郎を富枝夫婦の養子にという話もあり、りつの存在はもはや枡田屋に何の意味も無いも同然だったのだ。
「人を恨むな、羨むな」
親の教えは辛抱強い会津の女の生き様そのもの。
りつは自分の置かれた身の上を恨むことをせず耐えていた。
しかし思わぬところに耐え難い裏切りがあったことを知ったとき、りつが選んだ道とは・・・。
昔の女性は、顔も知らない男性といきなり結婚したかと思うと、夫が戦争に行き、何年も留守を夫の家族と共に過ごし、りつのように子供だけ残して戦死されでもしたときには、未亡人になってしまう・・・などということはざらだったようで、かく言う我が夫の祖母も、夫が太平洋戦争に行っては帰還するたびに子供を六人も産み、夫の留守を両親や義兄弟を支え、子供を抱えて夜も昼も働いたという強者だったりします。
今の私などには、到底マネのできない生活です。
女手もあり、使用人も居て、商売も順調で生活に支障は無く、跡取りにも困らない状況では、夫を亡くした嫁の立場というのは、なんと心許ないものでしょう。
せめて幼い息子のおしめだけは自分の手で・・・と思う、りつの気持ちがよくわかります。
現代のように女性の地位が確立されている訳でも無く、帰る場所も行くあても無い女には「いつどこへ出て行っても良い」と大金を持たされたところで、幼い我が子を残して、どこに行けるでしょうか?
つくづく、りつは哀れでならないというのに、追い打ちを駆けるような亡夫の仕打ち、信頼していた者の裏切り。
そんな彼女の心を動かしたのが、誠実な男性であっても誰にりつを責められるでしょうか?
「人を恨むな、羨むな」
厳しい教えです。
正しくて簡単そうなのに、苦境に立ったとき思い出すことが果たして出来るでしょうか?
