この本は、1984年に『父へのレクイエム』というタイトルで、読売女性ヒューマン・ドキュメンタリー大賞優秀賞を受賞、のちに山路ふみ子賞功労賞も受賞した作品で、2008年に山田洋次監督により映画化。
吉永小百合さんが「母べえ」を演じました。
映画化に伴いタイトルを『母べえ』に改題されたそうです。
「母べえ」は、作者・野上さんのお母さんがモデル。
昭和十二年のある寒い朝、特高と呼ばれる警察官がまだ布団に入っていた一家の元にやって来た。
父・巌が思想犯の容疑で逮捕されたのだ。
その日から母・綾子と叔母・エミ子、姉・初恵、そして照代の女四人の生活が始まる。
「母べえ」「エミべえ」「初べえ」「照べえ」という呼び方をしたのは父だった。
父逮捕のとき、父はまだ三十六歳、母は三十三歳だった。
まだ小学生の照代と思春期に差し掛かったばかりの初恵。
父の投獄によって、母は女手一つで家族を養い、父に少しでも不自由させないよう、せっせと差し入れをする。
母・綾子の苦労は想像を絶するものがある。
時代は太平洋戦争に向かっている中で、けして信念を曲げない父。
昔のキリシタンが踏み絵を踏まされたように、思想を変える(転ぶ)ことで牢獄から出る道もあったと思うが、それをしようとはしない。
読んでいて、家族のことを考えないのか?と思ったりもしたけれど、そんな彼を信じ、敬い、いつか無罪放免されることを祈り続けた家族にとって、父の罪など罪では無かったのだと思う。
唯一の救いは、ついに外に出ることなく獄中死するというくだりが作者によるフィクションだったことである。
映画は観てないけれど、いつかDVDででも拝見してみようかな~と思った。
