田中商店という名の聞き屋・話し屋という耳慣れない商売をする姉妹の物語。
電話一本で参上して、あなたのお話をお聞きします、もしくは、楽しいお喋りをお届けします。値段は一時間五千円。
剣崎空子二十六歳、剣崎里久子二十五歳。
美人姉妹が営む、この珍妙な商売は細々とながら上手くいっている。
なぜ剣崎なのに田中商店なのかというと、剣崎という珍しい姓が面倒だったから。
ある日、二人のもとに弟子入りを志願して江川という男がやって来る。
二人は、思うほど楽な商売ではないと断るが、「人の役に立つ仕事がしたい」という江川の決意は固い。
そこに「若い男性を」という、話し屋を希望する女性の依頼があり、ためしに彼をやってみるが大失態をしでかして帰ってきた。
客に対して「あんたは性格がねじ曲がってる!」と言い放って来たのだ。
様々な人を相手にする仕事だからこそ、相手に一時間五千円を高いと思わせるか、安いと思わせるか、それなりの技量と忍耐力が必要なのだ。
姉妹は身体に見合わぬ大食漢で、何かあったときの護身術と身体を鍛えることに余念がない。
どちらかと言えば里久子の方が活発で、空子は自分の内に何か秘めた感情を持っているタイプである。
そんな二人に懐き、ついにはアルバイトに雇ってもらえた江川。
高校生の広美も姉妹を姉のように慕い、通って来る。
姉妹は双子のように似ているけれど、性格が違い、考え方も当然違う。
聞き屋・話し屋というのは簡単そうだが、相手のどんな話にも辛抱強く、相手の気が済むまで上手に話を引き出して、気持ちを楽にしてあげることも、自分の価値観で「楽しい」と思う話を押しつけても、相手が楽しくなければ意味がない、話すという作業も楽な仕事ではないだろう。
でもこの姉妹になら、神業のように出来るのだと思えてくる。
たとえ自分の身に何が起こっていても、仕事に対してはプロ根性で取り組むことが出来る。
一緒にやっているのが姉妹だから、遠慮も無いのだろうし、ぶつかり合うことがあっても上手に乗り越えられるのだろう。
ストレス社会には、あってありがたい職業かもしれない。
