「浅草~遺書」 「田原町~踊子」 「上野~モダン食堂」 「上野広小路~父の秘密」 「神田~秘密」 「日本橋~魔法」 「銀座~恩返し」 「新橋~意気地なし」 「虎ノ門~純情」 「赤坂見附~思い出」 「表参道~睡蓮の女」 「渋谷~親孝行」
昭和二年に出来た日本最初の地下鉄。
当初は上野~浅草間だったが、のちに渋谷まで延長された銀座線の各駅停車のような、短編十二編。
中でも「踊子」という田原町のお話は印象に残りました。
五十八歳で肝臓癌で死んだ母親の遺品の中に、康子は背中に孔雀の羽根を付けた踊子の写真を見つける。
母はSKD(松竹歌劇団)の踊子だったのは知っている。
康子は父親を知らず、幼い頃は施設に預けられていたことがある。
母が最期まで明かさなかった康子の父親のこと、SKDを辞めてからのこと、康子は自分のルーツを知るべく母の昔の知人を訪ねる。
少しずつ真実に近付くも、当人はすでにこの世になく、確かめるすべもない。
過去を知ってもどうにもならない。
生きている人間は前を向いて歩くしかない。
今、手の中にある大切なものを失わないように。
康子は、半信半疑のまま真実を明かそうとはしない。
曖昧なままの方が幸せなことというのがあるのだ。
・・・康子の娘が昔の恋人に似ていることにように。
