「夜間飛行」 「風変わりな女の子」 「人なつっこい」 「夜ごとの美女」 「春の小夜」の五編。
「風変わりな女の子」を紹介します。(^-^)
大学の文学部の学生が手作りで発行していた雑誌が百号を迎えたのを祝って、編集に携わった卒業生と在校生が集う小宴が開かれた。
九州から上京した新田修介は、この集まりにさして興味は無かったが、おそらく来るであろう井川美砂と二十年ぶりに再会するのを楽しみにしていた。
十八~二十二歳の大学生活で多くの初めてと失敗を経験した修介。
四十二歳になり、三男一女の父親になって再び訪れた母校で、一気に若かりし頃を思い出す。
そこにいた十九歳の美砂は、一般的な美人ではなく、化粧もせず、アクセサリーも付けず、可愛らしい服も身に着けない、風変わりな女の子だった。
けれど彼女は、一部の男子から密かな熱い人気を博していた。
ボーイッシュ、媚びないけれど愛らしい、頭がいい、個性的、声がきれい。
修介もその一人だった。
美砂にはスポーツカーを乗り回す恋人が居るようだったが、思いも寄らない理由で彼女を傷つけ別れてしまう。
その夜、修介を訪ねて来た美砂から事情を聞いた修介自身もその告白に戸惑ってしまうのだ。
若かったのである。
再会した美砂は、今や作詞家として芸能界で活躍している。
今も独身でいる彼女は言うのだ。
「ヒットなんて一瞬で消えていく流れ星みたいに、あてどもないもの。女は家を守って子供を産んで育てる方がいい。一年のとき新田くんが言ったとおりだった」
いつだって明るい光をまとっていた風変わりな女の子の美砂からは、考えられない言葉だった。
修介は言う。
「たとえ一瞬でも、その歌を好きになって口ずさんだ人には、いつまでも心に残る宝物なんだよ」
私にも青春時代に楽しかったこと、悲しかったこと、辛かったこと、いろいろあったけれど、そのときどきに耳にしていた音楽は、曲であったり詩であったり、心のどこかが捉えていて時が経ってもその音楽を耳にすると、不思議とその夜の自分にスッと戻っていくような気がする。
人々を魅了する詩を作り出す一方で、二十年の間に美砂の心の中には、どんな音楽が聞こえていたのだろうか?
若さとは、甘く優しくほろ苦く、一瞬だけど一生光り続ける宝なのかもしれない。
