日本や上海でエステやスパを経営する実業家・早見紅子五十一歳。
独身で華やかな世界で生きてきた紅子は、それなりに恋愛の経験も豊富だ。
そんな彼女が上海滞在中にある日本人男性に出資を求められる。
男の名前は石井京(けい)三十九歳。離婚歴がある。
いきなり上海商工クラブの会合で初対面の紅子に金を無心してきた男。
十二万元は少額ではない。
紅子は条件付きで承諾した。
紅子が京の部屋を訪ねたとき、京は若い小姐(シャオジェ)と寝ていた。
紅子が訪れると彼女を追いだし、紅子とその続きをしようとしたのだ。
なんという男!
紅子は彼を拒むが、なぜか次第に京に惹かれていく。
もう若くないと自覚した女は不器用だ。
自分をさらけ出すことが出来ない。
甘えられない。わがままを言えない。無理を言えない。年上らしく弱味を見せまいとして大人のふりをして、心の中の孤独を隠し嫉妬をごまかす。
京にのめり込むほどに京がわからなくなる。
京には周敏という若い恋人がいる。
周敏は京と紅子の関係を疑うことなく紅子に彼の飼っている猫のことを相談するような純粋な娘だ。
紅子は周敏のために京の部屋のいる猫を引き取る。
その猫は、昔、京が付き合っていた女性が飼っていたもので、その女性は自殺していた。
紅子の運転手・趙(しょう)の姪で黄蓉という娘が小姐をしていて、日本人の男と何かトラブルになっているかもしれないと相談された紅子は、その相手の男・松本に会う。
松本には日本に妻子があるが、上海での単身赴任の身を小姐を買って慰めていた。
黄蓉の写真を見て紅子は驚く。
初めて京の部屋に訪ねたときに京に追い出された彼女だったのだ。
紅子にとって松本は、男女関係もありの友人となった。
やがて京の抱える悲しい過去が紅子と京を引き裂く。
京を残して自ら命を絶った女・藍子・・・彼女は人妻だった。
そして当時、新聞記者だった京と不倫関係になった。
京の書いた記事が藍子の夫の会社を倒産させ、破滅させ、死に追いやった。
藍子は夫の後を追った。
京の心に深く残った傷は紅子をしても癒えること無く、苦しみの中へと迷い込んで行ってしまう。
死んだ人には適わないということだろうか。
若い女にも適わない。
弾けるような美しい肌も怖れを知らない大胆さも思い切った行動力も、年齢と共に守りに入ろうとする。
他の全てを失っても、この恋だけがあればいい・・・そんな冒険ももうできない。
若い女から愛する男を奪うことも、過去の亡霊から彼を救うことも紅子には出来ないのだ。
読み進むうちに、うんうん・・・そうかもと思ってました。
私ももう若くないのね。(^^ゞ
