地下にあるホテル「オテル・ド・モル・ドルモン・ビアン」。
 
・・・舌を噛みそうです。(爆)
 
最下階は十三階。客室は九十九。
 
フロント係の募集要項は、勤務時間は日没から日の出まで。夜に強く、孤独癖があり、めったにイライラしない人を歓迎。
 
本田希里は、この募集を見て面接を受け、勤務することになる。
 
このホテル、いや、オテルはリゾートホテルともシティホテルともラブホテルとも違う。
 
心地よい睡眠以外の不要なものは一切無いホテル・・・いや、オテルなのだ。
 
希里が眠気覚ましにロックミュージックをかけ、踊った夜の翌朝、客たちは一様にどこか浮かれてオテルを後にした。
 
希里のかけた音楽とダンスの振動が、お客様に迷惑をかけてしまったのだった。
 
以来、音楽は子守唄をかけるようにした。
 
希里には双子の妹・沙衣がいる。
 
彼女は中学生の頃から様子が変わってしまった。
 
悪い奴と知り合い、薬物の影響ですっかり感情のコントロールが出来なくなった。
 
西村先輩は希里の彼・・・だったはずだが、やがて沙衣と深い仲になり、沙衣は妊娠し西村と結婚。希里たちの家族と同居、美亜が生まれた。
 
心を病む沙衣は育児を放棄。沙衣の代わりに希里は美亜の面倒を見る。
 
彼女にとって母親は沙衣でしかなく、希里は母親と似た顔をした身代わりでしかない。
 
沙衣は布団をかぶったまま自分の内に閉じこもり、呼びかけても返事もしない。
 
そんな家庭での辛さもオテルに持ち込むとお客様の睡眠に影響してしまう。
 
楽そうで難しい仕事だ。
 
でも希里だから務まるのかもしれない。
 
無性に心地よい睡眠が恋しくなる。
 
静かな空間が誰にも何にも邪魔されず、ただただ惰眠を貪り、爽やかに目覚めてみたい。
 
舌を噛みそうなオテル・ド・モル・ドルモン・ビアンは、どこにあるのだろう?
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