「繊光」 「大蛇」 「焦熱」 「運河」 「寂夜」の五編。
「繊光」は、冒頭の作品にしては、とても重く・・・痛かったです。
病気(アルコール依存症?と思われる)母親は、家では全裸で、けだるく横たわっている。
中学生の二人の兄弟は、排他的な生活の中ではあっても母子三人の暮らしを健気に生きていた。
しかし世間は、そんな母子家庭を放ってはおかない。
生活保護を勧められても、私生活を何もかもさらけ出すようなことはしたくないと拒否する母親。
弟が警察に補導されても迎えに行かなかった母親。
被害者宅に謝罪に行くことも拒否して兄と担任に委ねてしまう母親。
やがて福祉事務所からケースワーカーまでやって来るようになる。
成績が良く、高校に進学することを夢見た兄に突きつけられたのは、給食費半年分の未納。
一瞬、夢さえももぎ取られるかのような不安に怯える。
父親のことも母親のことも、母の男たちのことも、周囲の大人の汚いところをたくさん見て育った兄弟は、それでも施設に行くことを拒み、母のそばで生きて行こうとする・・・。
これは小説だけど、今の日本にはきっと私たちが考えている以上に、このような環境に置かれた子供たちがたくさん居ると思います。
子供は生まれて来る場所を選べない。
子供は親を選べない。
子供は生まれ育った家庭が、最も安らげる場所で無ければならないはず。
大人の都合で、いつも不安の中に置き去りにするのは、大きな罪だと思います。
