「勤労感謝の日」 「沖で待つ」の二編。
 
「沖で待つ」の方をご紹介します。
 
 
「太っちゃん」こと牧原太は「名は体を表す」の通りの太っちゃん。
 
住宅設備機器メーカーの同期入社仲間だ。
 
その彼とこんな約束をした。
 
「もし先に死んだら、パソコンのハードディスクを壊して二度と復旧できないようにすること」
 
死んだ後で、あれこれ恥ずかしいデータを、特に妻に見られるのはイヤだと太っちゃんは言うのだ。
 
福岡に転勤になった二人。
 
太っちゃんの妻は、その福岡で知り合った井口さんという素敵な女性で、一女をもうけていた。
 
その後、太っちゃんは単身赴任することになる。
 
まさか本当に太っちゃんが死んでしまうとは夢にも思わなかった。
 
朝、出勤しようとした太っちゃんの上に、マンションの七階から人が降ってきたのだ。
 
投身自殺の巻き添えになり、太っちゃんは即死してしまった。
 
彼女は約束どおり、太っちゃんのパソコンのデータを葬った。
 
ところが、福岡に井口さんを訪ねると、一冊の大学ノートを見せられた。
 
太っちゃんが書いた、小学生並みの妻へ捧げる詩の数々だった。
 
せっかくハードディスクを危険を侵してまで壊してあげたのに、こんなに下手くそなポエムを遺してしまうなんて。
 
これこそ死んでも人に見られなく無かったでしょう・・・と思ったのだった。
 
もう主のいないはずのマンションの部屋で、彼女は太っちゃんの幽霊に会い、話をする。
 
もうこの世にいない男と。
 
ラスト、「太っちゃん、死んでから太ったんじゃない?」というやりとりが微笑ましく、悲しい話なのに笑って読み終えていました。
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