ある日、仕事を終えて帰宅すると、家財道具一式とインド人の恋人が消えていた。
 
唯一、倫子の手元に残ったのは、祖母の代から大切にしていた糠床だけ。
 
倫子は仕方なく実家に帰る。
 
彼女の特技は料理。
 
そこで資金を母から借金して、自宅で食堂を営むことにした。
 
豊かな自然に囲まれた場所では、いつでも新鮮な食材が手に入る。
 
倫子は存分に腕を振るい、細々とではあるが、食堂は上手く行っていた。
 
そんなとき、母は病気で余命いくばくもないことを知る。
 
実家に帰って母に仰せつかった飼い豚・エルメスの世話。
 
倫子は自分で毎日木の実入りのエルメス用のパンを食べさせていた。
 
物語のラストでエルメスは倫子の手によって体の全ての部位を料理されてしまうことになるのだが、そのシーンは読んでいてあまり気分の良いものでは無かった。
 
 
先日、あるお坊さんのお説法の中に、こんな話があった。
 
高校の先生が生徒たちにニワトリの卵を孵化させ、育てたという。
 
若鶏に成長したときに、先生はニワトリの解剖をすると言い出した。
 
生徒達は自分たちの手で育てたニワトリの解剖なんて出来ないと言ったらしいが、結局従ったらしい。
 
その後先生は、その鶏肉を焼き鳥にして食べよと言ったそうだ。
 
生徒達は食べられないと言ったそうだが、「お前達は家で鶏肉を食べるじゃないか。その鶏肉と何が違う?」と言われ、生徒達は泣きながら焼き鳥を食べたという。
 
店で売られている肉を食べることには何も感じないのに、自分が育てたニワトリは食べられないというのは確かに道理としては変だが、手塩にかけて育てただけに愛着があるから食べ物として見られないという気持ちは人間らしい。
 
むしろ、何も感じない方が変というものでは無いだろうか。
 
 
話が逸れてしまったが、倫子にエルメスの体の全てを無駄なく料理するだけの技術があったことが幸いだと思った。
 
 
 
この作品は柴咲コウさん主演で映画化され、すでにDVDも発売されています。
 
私は観てないんですが、エルメスのシーンだけでなく、倫子の心のこもった手料理が食堂を訪れる人々を癒すシーンや、奔放に生きてきた母の最期の願い、そして母と娘の関係・・・原作に描かれた優しいシーンが、どんな風に映像化されているのか、気になる作品です。