幼なじみのひろと聡美。
十一歳の夏に突然、病に倒れた聡美の発作を止める治療がなかなか見つからない状況の中、なぜかひろの手が聡美の背中をさすると症状が治まる。
彼女を救えるのは、ひろの手だけだった。
そんな二人もやがて思春期を迎え・・・『ぼくの手はきみのために』。
『透明な軌道』は、集団の中で暮らすことに生きづらさを感じる真帆は、あるときスーパーで熱心に食玩を物色する康生と運命的な出会いをし、彼との時間に安らぎを覚え、恋に落ちる。
真帆にとって康生の生きている空間のすべてが心地よかった。
康生には、康生よりも真帆と年齢の近い息子の充生がいたが、彼もまた父親と同じようなタイプの青年だったので、気にならなかった。
穏やかに愛を育む康生と真帆のもとに、康生の前妻が旅先で病気になっていると連絡が入る。
飛行機で急ぎ旅立った康生は、不慮の事故で帰らぬ人に。
一人残された充生と一緒に暮らし始めた真帆。
やがて二人は結婚する。
『黄昏の谷』は、妹が置いて行った息子の貴幸を引き取り、ひっそりと肩を寄せ合って生きる寛一のもとに「あなたの子供よ」と言って、女が子供を連れて来る。
初恵という、実の娘かどうかも定かでない娘も引き取ることになってしまった。
狭い長屋で、貧しいながらも家族三人穏やかに暮らしていたが、やがて年ごろになった貴幸と初恵は愛し合うようになる。
大ヒットした『いま会いにゆきます』の作者さんの作品です。
どのお話もとても緩やかに時間が流れ、その緩やかな時の中にとても深い愛情が育まれていく様子が丁寧に描かれていて、読んでいて木陰に居るような心地よさを感じました。
悲しい出来事や結末も両手でふんわりと包み込むような、温かさを感じる三編でした。