学生運動が盛んな時代。
洋子の大好きな聡明な姉・希枝子が誤爆による奇襲を受け、命を落とした。
洋子は、姉と同じ東京の大学に進学し、姉が絶命したアパートの側を流れる川沿いの部屋を借りて住んだ。
やがて恋人ができた。
彼と一つの毛布の中で紡ぎ出す小さな宇宙が、洋子のすべてになった。
しかし彼もまた、姉と同じように誤爆による奇襲に遭い、洋子の部屋で二人を包んだ毛布の中で命を落としてしまう。
精神的ダメージを受けた洋子は、わざと敵を引きつけ刺激することで、彼らの奇襲を待った。
それは自殺行為に等しいものだった。
いざ、そのとき・・・
覚悟した瞬間、彼女は刑事の手に抱かれ守られていた。
襲撃犯と刑事、両方にマークされていた洋子。
洋子の計画は失敗し、命拾いをし、襲撃犯たちは捕まった。
間一髪で助かった洋子だったが、その精神的ダメージは深く、言葉を失い、食べることをやめてしまった。
入院した洋子に付きそうために、北海道の実家から毎週通って来る母。
洋子はふと思い出すのだ。
亡くなった姉の言葉。
「洋子、右足を出したら次は左。その次は右、それでいいのよ」
ようやく言葉が戻ったとき、母は洋子を抱きしめるのだった。
退院後、実家のある北海道に帰るが、彼女はやはり東京でやり直す決意をする。
学生運動というのが私の世代では今ひとつピンと来ないので、「内ゲバ」などという言葉を聞いても何のことだか、よくわかりません。
過去にそのような運動に熱心に参加し、暴力で人の命まで取り上げて良しな時代があったことに驚きます。
現代の学生たちは、なんと平和で呑気なことでしょう。
そういう過去の学生時代を過ごした人も、社会に出て何事も無かったように、医者・教師・公務員・会社員に転向し、ごく普通の人になって平和に暮らしています。
しかし唯一の救いだったのは、希枝子が愛した人が、そんな腰掛けの運動員では無かったということ・・・皮肉な気もしますが、彼・遠藤はアメリカ大使館襲撃事件を起こし、無期懲役刑になり、十数年後に刑務所から出るとすぐに自殺を遂げていました。
その話を聞いたときの洋子は、すでに中年といえる年齢に差し掛かっていました。
洋子が遠藤の存在を知ったのは、中学生のとき。
姉の部屋から夜中じゅう聞こえる音楽が気になった洋子は、姉の留守に部屋に入り、そのレコードを手にします。
姉らしからぬキャロル・キングの歌。
レコード・ジャケットから出てきた、姉の手紙。
その宛名が遠藤だったのです。
恋に憧れる少女の心をときめかせた姉の恋文。
「あなたを心から尊敬しています
But Will you love me tomorrow?
(しかし、明日もあなたは私を愛してくれているでしょうか?)」
少なくとも腰掛けで学生運動に加わった連中よりも筋金入りの革命家だった・・・それが希枝子にとっての救い。
姉を亡くし、恋人を亡くし、自分をも失いかけた時をずっと忘れないまま、洋子は妻になり母になり、平凡な日々に幸せを見出しているのです。
この作家さんは男性で、内容は血生臭い印象がしますが、どこか優しく、瑞々しささえ感じるのが不思議です。
いつの時代も暴力で解決することなど何も無いのに、多くの犠牲を払わないとそれに気付かない。
人間はつくづく愚かだと思います。