ある夜、瑞希が白玉をこしらえていたら、三年前に行方不明になった夫の優介が現れた。
 
白玉は彼の好物だった。
 
彼はすでにこの世に亡く、その身体は、どこかの海底に沈み、カニのエサになってしまった。
 
彼は三年の時を旅して瑞希の元へ帰って来た。
 
彼が行方不明になってから、ありとあらゆる手を尽くして探し回っていた瑞希は、やっと会えた優介がたとえ死者であろうとも消えて欲しくないと思うのだった。
 
二人は旅に出る。
 
それは優介が帰って来るまでに辿った道筋を逆から行く旅。
 
行く先々で仕事をし、人にふれあい、まるでごく普通の旅をしている夫婦のような時を過ごす二人。
 
いつか終わりの来る旅。
 
夫はすでにこの世の者では無いのだ。
 
しかし寝食を共にし、一緒に働き、言葉を交わしながら、その人が故人だなんてどうやって信じることができるだろう?
 
故人だからこそ話せることがある。
 
優介も生きている間には言わなかったことをたくさん話してくれる。
 
実際、何年後でも構わない。
 
故人とこんな風に再会できたら、どんなにいいだろう。