『チーム・バチスタの栄光』や『ジェネラルルージュの凱旋』の作者さんの作品です。
 
 
1988年、バブル景気真っ盛りの頃、好景気に沸いていた医療の世界にまだ医療費削減や医師数の削減という政府の政策が影響することなく、医師は医療に集中し、医学生は学生生活に明け暮れることのできた、医療の頂点の時代があった。
 
そのころ、医学部剣道部の部員たちが目指していた大きな象徴的大会に医鷲旗大会というのがあった。
 
毎年夏に行われる、この大会を目指して、将来医療の世界で悪戦苦闘をすることになる彼ら医学生は、あるときは授業をもさぼり、ひと振りの剣にしのぎを削る日々を送っていた。
 
そんな時代に豊かな才能を持ったふたりの男がいた。
 
ひとりは「剣の道をまっすぐに追求する男、東城大学医学部剣道部主将の速水晃一。
 
もうひとりは、有り余る才能を持ちながら、それ故にその世界を疎んじている奸雄、帝華大学医学部剣道部主将の清川吾郎。
 
ふたりは、東城大の猛虎、帝華大の伏龍と並び称されて、のちに英雄視される好敵手となる。
 
マジメで努力型の速水に対し、天才肌の吾郎は剣道に対しても速水ほどマジメに努力などバカバカしくてやってられないというタイプだ。
 
しかし彼の前に新入生の朝比奈ひかりが現れた。
 
彼女はマネージャーを志望して入部して来たが、剣を持たせれば吾郎も太刀打ちできないほどの剣の腕前の持ち主だった。
 
ひかりは祖父に剣道の手ほどきを受けていた。
 
吾郎はその「おジイ」との出会いで剣道が大きく変わることになる。
 
一方、東城大には新入生で吾郎の弟・志郎が入部して来た。
 
志郎は兄に強いライバル心を持っている。
 
そして帝華大の顧問だった高階が東城大の剣道部顧問になる。
 
高階顧問自身、過去に医鷲旗を勝ち取った実績を持つ凄腕の剣士である。
 
最初の夏、一見卑怯にも見える吾郎との「夏まで東城大の指導は一切しない」という約束を守り、両方にフェアな舞台を作った。
 
優勝候補はベスト4に残る4校・・・大体毎年同じである。
 
東城大と帝華大が当たるのも、ベスト4まで勝ち進んでからのことだ。
 
1年目は涙をのんで他校に医鷲旗を渡してしまったが、次の試合では負けられない。
 
吾郎はおジイの元へ弟子入りし、速水は高階顧問に与えられた試練に挑む。
 
どちらも主将の立場を放り出しての暴挙で、後輩や仲間から猛反撃を受けることになるが、片や笑顔で、もう片方は目を閉じて、戦いの場に臨むときを待っていた・・・。
 
 
医大の医学生なんて、勉強しか頭に無いんじゃないかと思っていたけれど、今はどうだか知らないけど、こんなに部活動にのめり込んだ医学生が実際いたのかな~とまず驚きました。
 
作品の中でも解剖の実習をしながら、筋肉や骨の名前を何千と覚え込まなければならないなんてとこがあり、剣道どころじゃないでしょうに・・・と思ったのですが、なんのなんの、この物語に登場する剣士たちはとっても清々しい。
 
ひ弱なガリ勉なんてイメージは微塵も無く、文武両道に生きる逞しく勇ましい青年剣士の姿があります。
 
単なる「体育会系」という言葉は似合わない感じです。
 
大学生活を勉強と部活動の二足のわらじで過ごした彼らは、伝説に残る名勝負の果てに、将来はそれぞれが同じ医学界の別々の場所で別々の個性を発揮していくというストーリーは本当に気持ちがいい。
 
努力すれば実るというものではありません。
 
努力しても、そこに運が付かないと勝てません。
 
そんなことが言えるのも甲乙付けがたい力量が相対してのこと。
 
どれだけの才能があり、どれだけの努力をしたか、そして勝利はどちらに強運を与えるのか。
 
誰もわからないからこそ、ひたむきに努力できるのでしょうね。
 
一つケチを付けるなら、朝比奈ひかりのような向かうところ敵無しみたいなサイボーグみたいな女の子は登場して欲しくなかったです。(^^ゞ