大学4年生の小笠原はサークルでマンドリンを弾いている。
愛用のマンドリンはサワラと名付けた30万円の手作りの逸品。
自分の未来に興味の無い彼女は、仕事や恋よりも趣味のマンドリンに夢中だ。
誰よりも練習を積み、誰よりも上達していたが、何せ小笠原は人付き合いが悪い。
協調性に欠けるのだ。
自分の考えを押し通す我の強さと、人と連むことを嫌う孤独主義。
唯一、彼女が「友達」と思っているのは、コンダクターの田中。
演奏中に彼の視線を得るだけで満足できる、尊敬できる存在でもある。
「友達」の一線を越えようとしても、それは恋愛がらみではなく、恋愛には発展しない。
そういうことに疎いのも小笠原なのだ。
卒業生みんなで演奏するという企画にも一人、主義に反すると入ろうとしない小笠原。
集合写真にすら入りたくないと思っている小笠原。
そんな彼女が、どんなにマンドリンの腕を上げようと、周囲は彼女を敬遠するようになり、望むポジションにさえ着けないのだ。
ラスト近く、田中がこんなことを言う。
「小笠原さんは『みんなと上手くやれたり、人に優しかったりする人よりも、頭のいい人が好き』って言うけど、オレはみんなと仲良くしてる人が羨ましい」
私は、田中のこの言葉は、実は小笠原の中に眠っている本心ではないかという気がしました。
「頭のいい人」というのは、とても漠然とした表現です。
勉強のできる頭のいい人もいるでしょうし、人が生きていく上で必要な、人間としての頭の良さというのもあるでしょう。
小笠原は後者を否定し、前者が好きだという意味に取れたのですが、その実、彼女は勉強ができる、できないのところでは悩んではいないのです。
みんなと仲良くできるのも才能だと思います。
私はみんなと仲良くはできません。
でも正直なところ、私もみんなと仲良くしている人が羨ましい。
そうできないから余計、無いものねだりするのかもしれませんね。