帝都大学医学部付属病院・分院に研修医として勤務している青山吾郎は、とても優秀な男だ。
 
上昇志向の塊のような吾郎は、自他共に認める優秀な研修医である。
 
しかし彼の心は不満でいっぱいだ。
 
希望とは違うオンボロ病院に配属され、一緒に働く研修医たちはどいつもこいつも使えない連中ばかり。
 
挙げ句は楽しみにしていた夏休みの旅行を彼女にドタキャンされてしまう始末。
 
そんなある夏の夜、吾郎は「ゴロー」という若い男と出会う。
 
見た目ミュージシャン風のゴローは、吾郎に向かって説教をしようとするではないか。
 
腹を立てる吾郎。
 
ゴローは自分を六年前にこの病院で死んだ、キクチ・ゴローと名乗った。
 
幽霊なんて信じられない。
 
吾郎は過去のカルテを探すと、そこには確かにゴローのカルテが存在していた。
 
ゴローは急性骨髄性白血病で入院し、治療の甲斐なく死亡していた。
 
幽霊なんて信じないはずの吾郎もさすがに狼狽し、仕事であり得ないミスを連発してしまう。
 
しかしなぜか、夜中になるとゴローに会いに行かずにいられなくなる。
 
ゴローと過ごすわずかな時間の中で、吾郎は医師としての自分を見つめ直すことになる。
 
そしてゴローが最後に吾郎に託した、たった一つの願いとは・・・・。
 
 
 
この本の中で、吾郎がダメなヤツと思っている研修医の一人に、三十七歳の男性が出てきます。
 
まずその年齢に「え!?」と思ったのですが、後で作者紹介を読んだら、この川渕さんという作家さんも三十七歳で京大医学部を卒業されており、1996年から研修医として大学病院に勤務した経歴をお持ちでした。
 
なんと、パチプロやサラリーマンの経験もあるという・・・人間って、どこからでも人生を変えることは可能なんだな・・・と、作品以外のところで感じてしまいました。(笑)
 
作品は、失礼ながら、このようなインテリなおじさんが書いたとは思えない、優しさと透明感があり、ラストでは涙ではなく思わずホロリと笑顔が浮かんでしまうという・・・温かい内容でした。
 
この作家さんのように、職業を変え、更なる努力をして生き方を変えることも可能ですし、吾郎のように同じ努力するにしても気持ちを切り替えることで生き方を変えることも可能。
 
お金があるとか無いとか、独身だとか既婚だとか、学歴があるとか無いとか、子供がいるとかいないとか、人が生きていく上で枷と思えば枷にしかならず、問題無いと思えば問題無いのだと、心の中で小さくガッツできるような、そんなお話でした。
 
幽霊はコワイけど、ゴローみたいな幽霊なら会ってもいいかな。(笑)