昨年「ダブル・ファンタジー」で、第22回柴田錬三郎賞、第16回島清恋愛文学賞、第4回中央公論文芸賞の三冠を受賞した作者の最新作。
「僕が死んだら、その灰をサハラにまいてくれないかな」
フランスで、久遠周(くどう・あまね)がひっそりと息を引き取った。
病床にあった彼の最期の願いが、遺灰をサハラにまいてほしいというものだった。
同居人だったジャン・クロードと、フランス在住の旅行会社に勤務するアマネの姉・緋沙子、そして中学・高校時代をともに過ごした親友、奥村浩介と早川結衣も日本から訪れ、4人は、かつてアマネが旅をしたルートを忠実に辿って、サハラに向かう。
久遠緋沙子は五つ年上の四十二歳の恋人・アランと結婚したいと思っていたが、結婚という形にとらわれるのを嫌うアランは緋沙子の思いに応えることはできない。
アランには離婚歴があり、もう一度結婚することは考えられないのだ。
ジャン・クロードは、アマネの最も親しい友人である。
友情というより、愛情で結ばれた二人だった。
彼は四十代も後半の差し掛かり、若いころは良かった容姿にも翳りが見え始めていた。
サハラ砂漠を訪ねる旅の途中でアマネと知り合い、同性しか愛せない者同士、理解し合って一緒に暮らしていた・・・が、肉体関係は無い。
国道沿いに建つ、古い洋館で雑貨店を共同経営している、奥村浩介と早川結衣。
二人は中学生の頃から、アマネも交えて三人仲が良かった。
アマネは昔から好きだった洋菓子作りの勉強をするため渡欧。
何かと大雑把な浩介と、それをサポートするような立場の結衣は良いコンビで店を切り盛りしていた。
店の二階に別々の部屋があり、それぞれ住んでいたが、ある夜、泥酔した浩介が結衣に迫り、なし崩しのように男女関係を持ってしまう。
翌朝、浩介が何も覚えていなかったことから、結衣が機嫌を壊してしまい冷戦状態に。
そんなときに飛び込んで来たアマネの訃報。
二人は店を従業員に任せ、アマネのもとに駆けつける。
アマネはずっと浩介への片思いに悩んでいた。
ホントのことなんて言えない、言えば友達でもいられなくなるかもしれない・・・。
浩介は、ごくごく普通の男。
結衣を好きなのに、あまりに近くに居すぎて上手く気持ちが伝わらず、結衣も浩介を好きなのに、なぜか素直になれないでいる。
四人は、それぞれの悩みを抱えて、アマネの遺灰をサハラの大地に帰すために旅をする・・・そして四人が見つけた、それぞれの答えとは・・・。
長編ロード・ノベルで、たぶん、取材のために村山さん、実際にパリ~スペイン~モロッコ~マラケシュ・・・と旅をしたんだろうな~~と、ちょっと羨ましく思いながら読みました。(笑)
先に毒を吐くと、少々書き方がうざい。
いちいち緋沙子目線の話、ジャン・クロード目線、浩介目線、結衣目線・・・と移り変わり、死んだアマネ目線もありーの、運転手のサイード目線の話まで出て来たときには、さすがに「え~い、せからしかっ!(ノ`´)ノミ┻┻」と思ってしまいました。
ま・・・よく出来てはいたけどね。(^^ゞ
それで、四人それぞれが、この旅でどんな風に心が変化していくのかもよくわかったし。
それからイスラム教の話も上手に取り入れてたと思います。
あまり宗教には興味が無いので、キリスト教もそんなに詳しくないけれど、イスラム教になるとなぜか戦争や暴動のような暴力性のある事件が頭をよぎるもので、誤解してたようです。
イスラム教徒というのは、すごく敬虔な信者なのですね。
断食の期間があるのは知ってましたが、それが何を意味するのかまで考えたことはありませんでした。
断食をすることで、誰もが平等になるのだそうです。
空腹感を共有することで、富んでいる人も貧しい人も病んでいる人も同じ苦しみを味わう。
誰もが経験できる苦しみを、わざわざ味わうことで平等になる・・・なんか深いな~と感じました。
途中、浩介が一度仕事上のトラブルを処理するために単身パリまで戻り、また旅に合流するために急遽飛行機で駆けつけるんですが、彼が乗ったと思われる飛行機が墜落するという事件が起こります。
浩介は、ある偶然のイタズラのおかげで一命を取り留めるのですが、誰もが飛行機墜落のニュースを聞いて絶望しました。
この件は浩介の人生観を変え、結衣も「今できること」や「今やるべきこと」を先送りにしてはいけないと強く思わせました。
神に傅き、厳しい自然と共に生きる人々と触れ、4人それぞれがそれぞれの人生を考えました。
鈍感な浩介は最後まで気付かずにいましたが、結衣はアマネの気持ちに気付いていました。
だからこそ、生きているうちにもう一度会いたかったし、最後くらい浩介に甘えたら良かったのに・・・と思っていました。
アマネの思いを一番理解していたジャン・クロードも、自身が一番アマネを亡くして打ちひしがれているのに、サハラではずっと譲らずに強くアマネの遺灰の入った缶を浩介に抱かせていました。
いよいよアマネの遺灰がまかれるとき・・・アマネは一番愛しい浩介の指に触れることができたのでした。
アマネの遺灰をまく4人の心は、旅に出たときには悲しみの淵にあったのに、明るく前を向いていました。
面白いお話・・・ではあったけど、小賢しい手法と作者の旅日記を読んでいる感の否めない作品のような気がしました。
・・・ひがんでるね、私。(爆)