とうとう逮捕されてしまった希和子(檀れいさん)。
それから十五年。
成人した薫=秋山恵理菜(北乃きいさん)は、千草(高橋真唯さん)に、過去を語り始める。
希和子から引き離され、実の両親の元へ戻された恵理菜(子供時代=小林星蘭さん)は、形ばかり取り繕った家庭の中で、怒ってばかりの母・恵津子(板谷由夏さん)と逃げてばかりの父・丈博(津田寛治さん)と、いない間に生まれた妹・満理菜との暮らしは、窮屈だった。
帰りたいと願っても、もう戻ることのできない島の暮らし。
恵理菜は幼い心で学ぶのだ・・・赤ちゃんのときに自分を誘拐した世界一悪い女、母がそう呼ぶ、かつて自分が「母」と呼んでいた女を憎み、記憶を封印することを。
恵理菜(北乃きいさん)は、母・恵津子に妊娠したことを告げる。
産むつもりは無いこと。
相手には奥さんがいること。
相手にも、もうすぐ子供が生まれること。
そして自分は中絶すること・・・これって・・・お母さんの大嫌いなあの人と同じだね。
実の親子でもないのに、どうして似ちゃうんだろうね。
恵津子は怒りに震えて恵理菜を叩き、「なんでそんなことするの?どこまでお母さんを苦しめるの!?」と泣き崩れる。
千草とともに小豆島に渡った恵理菜は、思い出を辿り始める。
沢田昌江(吉行和子さん)が営んでいた製麺所も人手に渡り、昌江もすでに他界していた。
小学校や八十八カ所・・・ぼやけた記憶の中に確かに存在していた「薫」というもう一人の自分。
けれど恵理菜はきちんと思い出すことはできずにいた。
そんなとき、写真館のショーウィンドゥに飾られた希和子と幼い頃の自分の写真を見つけた恵理菜は、写真館の店主に尋ねる。
店主(藤村俊二さん)は、その親子のことをよく覚えていた。
ずっと取りに来ないので、ずっと飾って取りに来るのを待っていたのだと言う。
写真という収穫を得て、島を離れようとしたとき、ちょうど漁から戻った文治(岸谷五朗さん)に出会う。
文治は京子(希和子の偽名)と薫の写真を見て、「あんたたちはどういう人だ?」と尋ねる。
文治は恵理菜と千草に「被告や犯罪者というものではない。普通の母と娘だった。京子さんと薫ちゃんは一時も離れたくないっていうくらい、いっつもくっついてた。仲の良い親子だったよ」と穏やかに答える。
「その人が子供と離されるときに最後に何か叫んでませんでしたか?」
真剣な顔つきで尋ねる恵理菜を見て、文治はそれが「薫」だと気付く。
文治はしっかりと記憶していた。
あの日、あのとき、希和子が叫んだ最後の言葉。
「もう少し待って。その子はまだ、朝ごはんを食べてないの!」
自分自身の破滅のときを迎えてもなお、薫の身を案じていた希和子の姿を文治は昨日のことのように覚えていた。
恵理菜の脳裏に、はっきりと希和子という「母」の姿が蘇る。
「お母さん・・・お母さん・・・お母さん・・・」
ずっと鍵をかけていた心の扉を開けた恵理菜は、溢れ出る母への思いに涙を流して泣きじゃくるのだった。
帰りのフェリーの上で、美しい瀬戸内の海を見つめながら、昔話していた島の言葉で自分の思いを語り始める。
「赤ちゃん産もうかな」・・・恵理菜は、お腹の中の子供にも、この美しい世界を見せてあげたい、
この子にはそれを見る権利があるのだと決意する。
船上から母・恵津子に電話で、そのことを話すと、母は恵理菜の気持ちを理解してくれた。
母もまた、人の子の母なのである。
一方、逮捕された希和子は裁判で、「謝罪の言葉を述べるように」と言われたのに対して、秋山夫妻に「五年間、子育てという喜びを味わわせていただいたことを感謝します」と言ってしまう。
判決は懲役7年。
獄中でも薫を一時も忘れず、何通もの手紙を書き綴っていたが、秋山家の前に訪れたとき、13歳の誕生日を祝ってもらう恵理菜の姿を見た希和子は、手紙を全て燃やしてしまう。
その後、各地を転々としたが小豆島に行ってみたくなり、チケットを買うものの、薫のいない小豆島に渡ることができずにいた。
そして近くの船着き場で働くようになった希和子。
仕事の合間に光に包まれた小豆島を見つめ、あのときの幸せを思うとき、薫を初めて抱き上げたときに感じたあの感覚を思い出すのだった。
ふと傍らに落ちた蝉の抜け殻に手を伸ばす希和子。
薫も蝉の抜け殻が好きだった。
蝉は殻から出て七日間しか生きられないけど、もしかしたら八日めにも生きている蝉がいたかもしれないね・・・そう話したとき、薫は自分だけ一人で生き残るのは寂しいからイヤだと言ったけれど、あのとき言ってあげられなかったことを教えてあげよう。
八日目の蝉は独りぼっちだけど、みんなより少しだけ綺麗な景色を見ることができるんだよ・・・。
希和子の働く船着き場で一休みし、お茶を飲む恵理菜と千草。
ふと恵理菜を見た希和子は、その顔を見て「似ている」と思うが、いつものくせで似たような年格好の娘さんを見たときの感覚と同じだと、その場をやり過ごしてしまう。
が、後片付けに行った希和子は、その娘が座っていたテーブルに見つけてしまうのだ。
恵理菜が見つけると可哀想でつい拾ってしまう、蝉の抜け殻を。
咄嗟にあとを追う希和子。
道路を挟んだ先に恵理菜の姿を見つけると思わず「薫!」と叫ぶ。
声に振り返る恵理菜。
確かに二人の視線は絡み合うのだけれど、夕陽が邪魔をして恵理菜には希和子の表情はよく見えない。
恵理菜はそのまま背を向け、「帰るべき場所」へと歩き始める。
その背を希和子は満足そうに見つめるのだった――――――――――。
終わっちゃいました・・・・。
まず最初にひとつ自慢していいですか?
先週のレビューであえて書かなかったんですが、ワタクシ、希和子の最後の言葉は「その子はまだご飯を食べてないんです」だと思ってたんです。
ビンゴ~~!!
すみません、それだけです。<(_ _)>
最後まで手抜き無しの良いお話でしたね。
どこもかしこも感情移入しまくりで見てしまいました。
初めて実の母に抱きしめられて粗相してしまった恵理菜を思わず、「柔らかいと思って触った動物の毛がごわごわだった」ような表情で見てしまった恵津子の気持ち、なんとなくわかります。
生まれて半年の可愛い赤ちゃんが、五歳の娘になって戻って来ても、「ホントに私が産んだ子供なの?」って疑問に思ってしまうのも無理ないです。
それも知らない方言で話す娘、どこかよそへ「帰りたい」と泣く娘・・・可愛いはずの我が子が我が子じゃないような気がする・・・そんなとき、すぐに母に戻れるものでしょうか?
恵理菜の妹が生まれて、ずっと子育てしてきた母親であるからこそ、余計その違いが辛かったんじゃないかと思います。
訳がわからない五歳の子供に何をどう理解しろというのか・・・それも可哀想な話で、本当にそこだけ見ると、希和子の犯した罪はとても重くて許されるものじゃないと憎く思えてしまいます。
小豆島で文治が希和子のことを語っているときになって、ようやく「ああ、希和子もまた、この子の”真実の”母だったんだな~」と改めて思ったりして。
確かに悪いことだけど、希和子は希和子の人生の全てを賭けて薫を愛していました。
それは紛れも無く、真実の母の愛情で、薫に精一杯の幸せを与え、持ちうる限りの愛を注いでいました。
形ばかり取り繕った幸せではなく、本当に血の通った「愛」が二人を繋いでいました。
そこに本当の幸せが確かに存在していたのです。
だから罪が許されるものではないけれど・・・恵理菜の台無しになった人生を取り戻せるかもしれない大切な「何か」を、そのヒントを恵理菜に残したように思います。
文治役の岸谷さん・・・良かったですね。
あの話し方、方言とか声のトーンとか、朴訥なのにとても優しくて。
今でもあの頃のまま希和子と薫を愛しているように見えましたね。
希和子は思いきって小豆島に渡れば、もしかしたら文治が迎えてくれるのかもしれませんね。
でも希和子の人生は、薫と離ればなれになったときに終わってしまった・・・。
薫のいない場所で希和子はもう自分だけ幸せになろうとは思わないような気がします。
彼女はこれからも心の中で、薫という娘と同行二人のお遍路の旅を続けていくのかもしれません。
薫の幸せを祈りながら・・・いつまでもいつまでも。
岸谷さんのセリフを借りて・・・
希和子も恵理菜も「頑張りやぁっ!!」と思えたラストでした。
希和子役の檀さん、若い頃は言うに及ばずの美しさでしたが、十五年後の老けたところもまた美しかったですね。
宝塚出身の舞台人特有のちょっとオーバーな話し方のクセも無く、優しく落ち着いたトーンで薫に語りかける声は秀逸でした。
希和子は本当に心の優しい、心の美しい女性だったんだな~と思いました。
きっと良いお母さんになれたでしょうに。
秋山のバカ男にさえ出会ってなければ、普通に結婚して理想の家庭が作れたかもしれないのに!!という思いは最後まで消えませんでしたが、秋山との過ちが無ければ薫とも出会っていなかった・・・薫と出会わない人生は考えられないと言う彼女の言葉を思い出すと・・・やっぱり秋山との恋愛は必要なものだったってことになるのか・・・と悔しいやら切ないやら。(笑)
長い長いレビューに最後までお付き合い、ありがとうございました。<(_ _)>