「水の中から見た月」「東十五室」「逆さオリオン」「卑怯者の歌」「北京の十日間」「万引きランナー」「南天のカノープス」の七つの短編集。
 
関口尚さんという作家さんの本は初めて拝読しました。
 
若者の青春群像をとっても爽やかなタッチで描いていて、好感の持てる文章を書く作家さんだな~と思いました。
 
さてさて、今回はどれをご紹介しましょうか。
 
 
まずは「水の中から見た月」。
 
高校生になって野球部に入った主人公・宮田。
 
全然成績のぱっとしない野球部だったが、三年生に平という暴君がいた。
 
後輩へのいびりやしごきは野球の指導の範囲を逸脱した彼らの憂さ晴らし。
 
後輩たちは黙って三年生が引退する日を待っていた。
 
しかし夏の大会の予選で敗退しても暴君は去らなかった。
 
夏の合宿の頃になって入部してきた香取は、「三年が抜けるまで入部しなかった」と恰好のいびりのターゲットに。
 
しかし香取はグラウンド50周もたやすくこなし、ピッチングする球もタダモノとは思えない剛速球。
 
なぜ今まで野球部に入部しなかったのかが不思議なくらいだった。
 
ある日、平と一戦交えることになった香取。
 
バッテリーを組んだ宮田のミットに心地よい速球が投げ込まれる。
 
平は手も足も出ない。
 
腹を立てた平はバットに球が当たるまで香取を許さなかった。
 
そして・・・ピッチャーゴロに決まるはずだった平の打球を香取は、その場にかがみ込んでしまい取ることができなかった。
 
誰もが目を疑う光景だった。
 
その夜、宮田と香取はプールに潜って、水の中から月が見えるかどうかを確かめていた。
 
合宿で酒も入っていた平が金属バットを窓から出し、角という一年をぶら下げていた。
 
宮田が刃向かうと乱闘に。
 
そのとき香取が、窓から飛んだ・・・。
 
脚を骨折した香取に「なぜ飛んだの?」と訪ねる宮田。
 
中学時代、将来有望と言われた名ピッチャーだった香取は片目の視力を失っていた。
 
高校でも野球をすることを夢見て硬球で練習しているときに目を負傷し、視力を失ったのだ。
 
それでもピッチングの練習は欠かさなかった。
 
だが、打球をその目は捉えない・・・。
 
香取は飛んでみたかったのだと言う。
 
香取は観客の立場よりも、表現する側であり続けたいと言う。
 
そしてその言葉どおり、彼は画家になる。
 
彼の個展を見た角に感想を聞くと「抽象画でわからなかった」と言うが、宮田にはパンフレットの文字を見て思うところがあった。
 
絵のタイトルは「水の中から見た月」。
 
あの夜、香取の瞳には月が見えていたのだろうか。
 
 
もう一つ、ひねりますの風香としては俳句を題材にした「逆さオリオン」ははずせません。(笑)
 
俳句を通じて心を通わせていく杉矢と帰国子女の佐倉宏美。
 
ラスト、再びオーストラリアに去ってしまった宏美が送って来た一句『オリオン座 真っ逆さまの 夜明け前』。
 
一目見て、ダメだな・・・ちゃんと見てから俳句にしないとと言って聞かせたのに・・・とダメ出しする杉矢。
 
オリオン座は逆さまには見えないのに・・・と。
 
でも宏美の住むオーストラリアは南半球にあるので、オリオン座は逆さまなんですよね。
 
宏美はちゃんと杉矢の言いつけを守ってたんです。
 
なんとも心の温かくなるお話ではありませんか。
 
 
瑞々しい青春時代を思い出したい方にぜひオススメの一冊です。