2009年、東京。
秋山恵里菜(北乃きいさん)の前に永井千草(高橋真唯さん)が現れ、恵里菜の過去の誘拐事件について調べていると言う。
千草はエンジェル・ホームで幼い日々を共に過ごした、仲良しの「マロンちゃん」だった。
小さい頃のことは何も記憶にないと言うが、千草は恵里奈を連れて、今は廃屋になったまま放置されている、かつてのエンジェル・ホームを訪ねる。
1993年。
エンジェル・ホームを出た希和子は薫(=恵里菜<小林星蘭さん・子役)を連れて、久美(坂井真紀さん)の実家である小豆島の製麺所兼店舗を訪ねる。
久美の行方を案じる母の昌江(吉行和子さん)に、久美と一緒の会社に居たとウソをつき、彼女はここへ戻れないが元気だと伝える。
思いがけず娘の消息を知って、希和子と薫を歓迎するものの、仕事をさせて欲しいとの申し出は断られてしまう。
島で路頭に迷っているとき、漁師の文治(岸谷五朗さん)に出会い、住み込みで働きたいのなら・・・とホテルを教えてもらう。
しかしそこは、古びたラブホテルだった。
薫と一緒の時間をより多く作りたいと思った希和子は、深夜のホテルの管理室で薫の寝顔を眺めながら働き、午前中の清掃作業を終えると薫を背負って家に帰る・・・という生活を始めた。
しかし夜に働く希和子は昼間に起き上がることができないほど疲労してしまい、つい眠り込んでいる間にお腹を空かせた薫が外に出かけてしまったのにも気付かなかった。
目を覚まして、薫がいないことに気付き取り乱す希和子。
表に飛び出すと、ちょうど薫が文治に伴われて帰って来たところだった。
ぶっきらぼうに魚の入った袋を差し出す文治に、希和子は緊張を解かない。
そんなとき、昌江が希和子を訪ねて来て、「あんなところで働いてちゃいけない、うちにいらっしゃい」と言う。
昌江は希和子と一緒にいれば、いつか久美が帰って来るのではないかと淡い期待を抱いていた。
昌江の好意に甘えて、製麺所と店で働くようになった希和子は、ようやく念願の「ごく普通の当たり前の母と子の日常」を過ごす幸せを噛みしめていた。
しかし、ある日急に腹痛を訴えた薫を島の病院に連れて行くと「腸閉塞だから本土の大きな病院にすぐに連れて行きなさい。今なら最終のフェリーに間に合う」と言われ、薫を抱いて港に行くが、間一髪のところでフェリーは出航してしまったところだった。
「待って!行かないで!!」
希和子の叫び声も虚しくフェリーは遠ざかって行く。
希和子は薫を抱きしめて「助けて」と嗚咽を漏らす。
ちょうどそこを通りかかった文治が船を出し、なんとか薫の症状は落ち着いた。
だが保険証が無いため、薫の医療費を実費で払うことになる。
文治はその様子を遠くから黙って見つめていた。
家に帰り、薫を布団に寝かせ、仕事に行かなければならない希和子の「昌江に心配をかけたくない」という思いを察した文治が、一日薫の面倒を見ると申し出てくれる。
仕事を終えて急いで戻った希和子の耳に聞こえて来たのは薫の笑い声。
文治と二人で残されるのを不満そうにしていた薫も、すっかり文治に懐いて一緒に遊んでいた。
夕飯を共に過ごした後、薫が眠りに就いたところで、お茶を淹れる希和子の手元に、文治がぶっきらぼうに裸の紙幣を二枚出す。
薫の医療費だと言う。
希和子は「そんなことをしてもらう理由がない」と固辞するが「これから先ずっと、薫ちゃんが病気になるたびに自費で医療費を払い続けるのか」と言われてしまう。
文治は独りなのだ。
生まれたばかりの子供を失い、夫婦間を繋ぐものを無くした夫婦は虚しい時間を過ごすしかなかった。
妻は島に来た東京のカメラマンと出ていってしまった。
新しい人生を始めたのだ。
それを責めることはできない。
しかし、文治は独りぼっちになってしまった・・・。
ふと希和子と文治の孤独が引き合ったのかもしれない。
二人は静かに抱き合っていた。
希和子はそれを「疲れて大きな木に寄りかかっただけ」と自分に納得させる。
その木は大きくて静かで優しくて、そして温かいと・・・。
夏祭りの日、希和子と薫は昌江が用意してくれた久美のものという浴衣を着て、祭りに参加する。
平和で幸せで静かな小豆島での日々・・・ずっと続いて欲しいと、一日でも長く薫と一緒にいたいと強く願う希和子だったが、彼女の追っ手は彼女の知らない間にすぐ側にまで近付いているのだった。
冒頭、恵里奈のどこか言い様の無い孤独や寂しさ・・・それが一体どこから来るものなのかがわからなくて、それがまた北乃きいちゃんの表情を通して伝わって来て切なかったです。
恵里奈は自分が過去に誘拐されたことも、その犯人と父が不倫関係にあったことも全て知っていました。
千草に見せられた当時の新聞記事や雑誌の興味本位のようなスクープ記事の切り抜きを見ても「今さら見ても驚かない」と言います。
どこか、彼女の心のどこかに固く鍵をかけた部屋が存在しているように見えました。
たぶん忘れてしまった訳では無いのでしょう。
赤ちゃんから五歳までの幼児期を誘拐という形で別の母親に育てられたことは、彼女のそこからの人生では全て鍵のかかる部屋に周りのオトナたちも、自分自身も閉じこめて封じ込めるしか無かったのでしょう。
お腹に子供を宿した今、父と同じように妻子ある人に恋をした今だからこそ、あの誘拐事件への恵里奈の理解もまた変わるのだと思います。
次回からあたり、恵里奈の心の中の部屋の鍵が開くのかもしれませんね。
さて、希和子ですが、小豆島という土地柄か、時間が経って事件が風化したせいか、最初は警戒モードバリバリでしたが、少しずつ慣れていってからは本当に幸せそうでしたね。
朝起きて薫と一緒にご飯を食べて、薫を目の届くところに置いて仕事をして、薫と一緒に遊んで、薫と一緒にお風呂に入って歌を歌って、薫と一緒に眠る。
何も贅沢なことをしなくても、ただそれだけでいい。
ただそれだけが幸せ。
永遠に続かないけれど、ずっと続いて欲しいと願ってしまう小さな幸せ。
希和子のしていることは明らかに悪いことなのに、少しでも長く薫と一緒にいさせてあげたいと思ってしまうのはなんででしょうね?
子供を失って夫婦を繋ぐものを無くしたと言った文治の言葉に、子供を連れ去られた秋山夫妻は今どうしているのだろう?と思いました。
本当は同情されるべきは秋山夫妻の方なんでしょうけど、やはり秋山の奥さん(板谷由夏さん)の言った「心も身体もがらんどうな女」という言葉があまりにもいやらしかったからかな・・・と私は今思っています。
希和子の方が間違っているし、家族が欲しいと望むのなら、家庭のある男と不倫なんてしたってしょうがないじゃない・・・・と思ってしまうけれど、そこに歯止めが利かないのが恋愛感情。
秋山と一緒になりたい一念で、言われるまま堕胎し、その結果不妊症になった女に同じ女が掛ける言葉でしょうか?
夫の不倫相手に離婚を迫られて、優しい言葉なんてかけられる訳が無いけど、その言葉は無いでしょうって思うんです。
なぜなら、一視聴者でしかない私が忘れられないくらい傷ついてしまった言葉だから。
実際に希和子の立場になって正面から言われたら、死にたくなってしまいそうです。
生きるすべを希和子は間違った方向に求めてしまったけれど、どこか彼女に同情的に応援してしまうのは致し方ないのかなと思います。
来週はついに希和子は逮捕されてしまうようですね。
薫も全く面識の無い、実の両親のもとへいきなり帰されても戸惑うでしょうね。
でも、それぞれが居るべき場所に戻らなければ逃避行は終わらない・・・。
人の命をカウントするのでは無く、終わりが来るのがこんなに切ないドラマも久しぶりです。