エンジェル・ホームで過ごし始めて三年目。
希和子(檀れいさん)と薫(子役)は、ひととき逃亡生活を忘れ、穏やかな日々を過ごしていた。
希和子は作物を作ったり、パンを焼いたりして町に売りに行く仕事をしており、薫は他の子供たちと遊んだり勉強をしたりと、楽しく過ごしていた。
この平和な日々が永遠に続けばいいと希和子は思っていた。
ただ、一つだけ不満があるとすれば、夜の時間を親子で過ごせないこと。
希和子以上に幼い薫には、それが寂しくてたまらず、夜中に子供部屋を抜け出し、希和子のもとへ向かってしまう。
久美(坂井真紀さん)の協力を得て、一夜を共に過ごすものの、それは規則を破ることだと責められ、罰を受けることになる。
そんな様子を見ていた久美は、置いてきた子供に会いたい一心で、エンゼル(藤田弓子さん)の部屋からお金を盗もうとしてサライ(高畑淳子さん)に見つかってしまう。
サライは追放するべきだと言うが、エンゼルは初犯だし未遂なんだからと言って久美を許す。
久美は、他の子供たち同様、自分の子供もここに連れて来て一緒に育てるわけにはいかないか?と尋ねるが、子供が男の子であるという理由で却下される。
五歳児の子供なのに、なぜダメなのかと問う久美にサライは冷たく「男はみんな女の敵です!」と言い放つ。
翌日の移動販売に久美と出かけることを言いつかった希和子。
サライは久美がまたお金を盗ろうとしたり、子供を連れ出そうとしないよう、希和子に見張り役を命じる。
破れば幇助したとして、処罰するとまで言われてしまう。
そうして久美と二人で移動販売に出た希和子。
その車中、久美からサライの過去を聞かされる。
サライは過去に自分の子供を、育児ノイローゼからベランダから投げ捨てて殺してしまっていた。
久美は、子供にどうしても会いたいと希和子に懇願。
希和子は止めることができず、久美のかつての婚家に行く。
一人、家の門の前に佇む久美の目に、小さな洗濯物と自転車が映る。
すると家の中から小さな男の子が出てきた。
門の外まで出てきて無心にコマ回しをする男の子こそ、久美の息子・亮太だった。
思い切って話しかけてみるものの、亮太の記憶に久美の存在は無く、がっかりと移動販売車に戻った久美に追い打ちを掛けるように、亮太と亮太の新しい母(有坂来瞳さん)がパンを買いに来てしまう。
何を買うか迷う親子に久美は「あなたが好きなのはチョココロネでしょ」と押しつける。
仲良く手を繋いで去って行く亮太とその母を見送りながら、久美は叫ぶ。
「亮太は私がお腹を痛めて産んだ子や!」
「母親なら子供の好きなもんくらいわかるはずや!」
涙ながらに叫ぶ久美を複雑な思いで見つめながら、希和子もまた涙を流していた。
エンジェル・ホームに十七歳の少女がやって来る。
大きなお腹を抱えた少女は子供をここで産ませて欲しいとエンゼルに訴える。
親の反対に遭い、何度も堕胎させられそうになったと言う。
「どうしてそんなに子供が産みたいの?」
サライの冷たい問いに「自分の子は可愛いから」と無邪気に答える少女。
サライは「自分の子だからって可愛いとは限らないのッ!!」と叫ぶ。
少女の出産のときが来た。
親元を逃げて来たとは言え、陣痛の痛みに耐えかねた少女が叫んだ言葉は「お母さん!」
「誰か手を握って!」
目の前で叫ぶ少女を呆然を見ているサライ。
思わず駆け寄って手を握る希和子。
背中を起こして支える久美。
新しい命が誕生し、母になった少女に抱かれる姿を見ていたサライは、マリア像の前で慟哭する。
しかし少女の親が「未成年を監禁するな!」と騒ぎだし、エンジェル・ホームはマスコミなどに糾弾されることになってしまう。
たまたまテレビカメラに取り囲まれた車両に乗っていた希和子の姿がニュースで流れ、子供を連れ去られた薫の実父・秋山に見られてしまう。
エンゼルは、このままでは警察まで押し寄せる可能性があると見て、エンジェル・ホームをマスコミに公開することにする。
身の危険を感じた希和子は、薫を連れて逃亡を計画。
エンゼルの部屋でお金を盗もうとするところを久美に見つかってしまう。
久美は希和子の逃亡を手助けし、希和子と薫は無事エンジェル・ホームから脱出。
久美から渡されたのは、実家の住所。
何か困ったら訪ねて行くといいと言ってくれる。
薫と山を越えて、ようやくタクシーに乗ったとき、日はとっぷり暮れていた。
車窓に見える月を見て「月が付いてくるよ」と言う薫。
薫はホームから一歩も出たことが無いのだ。
同じくらいの年頃の子供なら、とっくに経験していることも知っているはずのことも何も知らずに小さな世界でだけ暮らして来た。
希和子は薫を夜の遊園地に連れて行き、これからは薫にいろんなことをいっぱい経験させてあげると誓う。
二人で乗った観覧車。
薫が「夢みたい」と呟くと、思わずその小さな身体を抱きしめて「ずっとずっと薫と一緒にいたい」と呟くのだった。
サブタイトルは「悲しい女たち」だったかな?
ホントに悲しい女たちの吹きだまりのような、エンジェル・ホーム。
多少、インチキでも胡散臭くても行き場の無い女が死ぬ以外に見つけた安息の場所なら、あってもいいんじゃないかと今回は思ってしまいました。
久美の残して来た子供に対する執着心は痛いほど伝わって来たけれど、実際連れ去って、実の母親のもとで育てたとして、それが亮太のために本当になるのか。
新しい母親を迎えて、自分のことなどすっかり忘れ去って、穏やかに幸せに暮らしている亮太を無理やりにでも連れ去ってしまいたい気持ちの傍らで、それはもう無理なんだと諦めなければいけない辛さ。
坂井さんの心の叫びと涙が辛くて辛くて、「おねえちゃん」と呼ばれてもOKだとウッカリ許してしまいました。(爆)
そして鉄仮面のような強面のサライにあんな衝撃の過去があろうとは。
育児ノイローゼと言うと、「親のくせに、そんな感情信じられない」と眉をひそめる人は多いでしょうが、育児ノイローゼという症状の影に潜む母親の心理、女の心理というのは「母性」の一言でうち消してしまえるほど簡単なことでは無いのです。
しかしサライは鉄仮面で顔を覆って、自分の過去を封じ込めて来ていた。
何度も思い出して、何度も後悔して、何度も懺悔して・・・でもそれを全部鉄仮面の裏に隠して、自分でも向かい合うことをやめていた。
でも少女の出産を目の当たりにしたとき、彼女の鉄仮面は壊れてしまった。
あの怪獣のような慟哭の後、サライの表情が軟らかくなり笑顔をたたえるようになったのにお気づきだったでしょうか?
彼女は鉄仮面を壊して、懺悔の慟哭をしたことで、長い暗いトンネルから抜け出すことがきっとできたのでしょう。
さて、希和子はまた逃亡の日々に身を晒すことになりました。
次の舞台は久美の故郷・小豆島になるようです。
幼い薫を抱えて、人目を忍ぶ逃亡生活。
日本という狭い島国の中の更に小さな島で、彼女の人生はどういう風に動いていくのでしょうか?
母親でありながら、本当の母親ではない希和子のエンジェル・ホームでさえ語ることのできなかった苦しい思い。
許されない行為は誰も希和子に優しくは無いでしょう。
でもそうせざるを得なかったギリギリまで追い詰められた希和子の女の部分を理解できるからこそ、この物語は成り立っているのだと思います。
次回も楽しみです。
長いレビューにお付き合い、ありがとうございました。
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