先日「ほかならぬ人へ」で直木賞を受賞された白石一文さん著の2006年の作品。
白石さんの作品は「草にすわる」「もしも、私があなただったら」に続いて三作品目の拝読になります。
「20年後の私へ」「たとえ真実を知っても彼は」「ダーウィンの法則」と表題作の四編。
作者ご自身があとがきで述べているのですが、これらに加えて「もしも、私があなただったら」の五作品はわずか一年の間に猛スピードで書き上げたものだとか。
普段は一年に一本程度で仕上げているそうなので、四年分のお仕事を一気にこなされたことになります。
けれど、どれもとてもメッセージ性のある物語で、読んでいてぐいぐい引き込まれていきました。
どの作品にも「ああ、この言葉は書き留めておきたい」と思うような宝石のような、目を覚ましてくれるような、寝ぼけた頭に一撃を食らうような、珠玉の言葉があるのです。
そして登場人物がとても魅力的。
私は特に「どれくらいの愛情」のヒロイン、晶はとても好きです。
不幸な境遇に育っていながら、それを全部は表に出さず、愛する男を守るためなら、自分を貶めるような大嘘の芝居をうち軽蔑されて別れる道を作り、それでいて彼の経営する店(チェーン店なので何店舗かある)に一ヶ月に十日以上も通いつめ、思い出の日は必ずそこで過ごすような可愛らしさもあり、病気になれば悪い方にしか考えることができず悲観的になってしまう・・・。
彼女にはどうしようもない兄がいて、彼女に付きまとい、彼女を利用してお金を巻き上げようとしたり、上手くいかなければ放火や殺人も辞さないような卑劣な男であるがために、その兄がいる限り幸せにはなれないのだと諦めている・・・。
なんでかなぁ?
とっても不幸で、とっても可哀想なのに、彼女は明るい印象を持つし、不幸を背負った人物っていう感じがしない・・・。
不思議。
白石さんの表現の巧みさなのでしょうね。
この五作品を通して白石さんが描きたかったのは「目に見えないものの確かさ」。
抜粋します。
「目に見えるものの不確かさの中に見えないものの確かさが隠され、目に見えないものの不確かさによって、目に見えるものの確かさが保証される」
私は上手に説明できませんけど、作品を読んでからあとがきのこの一文を読んだときは衝撃でした。
すごく深いな~と思いました。
人生でちょっと立ち止まって、うずくまってしまっている方、ぜひ手に取って読んでみてください。
何か、一歩を踏み出すヒントが得られるのではないでしょうか。