前々回、『パッパパラダイス』の歌詞を引用する際に
『がんばる君の最前列にずっといたい』
とこんな風に書いてしまったが、当然これは正確ではない。正しくは
『がんばる君の最前列に
シュビドゥビ ドゥビドゥビ
ずっといたい ドゥビドゥワ
パッパパラダイス』
と書かなければならない。そう、今回のヒカルさん、スキャット風の歌い方をしてるパートが其処彼処にあるが、ここは厳密にいえばスキャットそのものとは言えないのだ。Wikipediaの「スキャット」の項の冒頭を引用しよう。
「スキャット (Scat) とは、ジャズやポップスなどで使われる歌唱法のひとつ。意味のない歌唱、たとえば「シャバダバ」「ドゥビドゥバ」「パヤパヤ」「ルルル」といったような音声をメロディーにあわせて即興(アドリブ)的に歌うこと。この歌唱法は、「歌」というよりも声を一つの楽器として表現する手法である。」
そうなんですよ。「歌」というより「音声」、声を楽器として扱うのがスキャットなのだ。しかしヒカルさんは『パッパパラダイス』で
『シュビドゥビ ドゥビドゥビ ドゥビドゥワ』
というカタカナ表記の“歌詞を歌っている”んですよ。
なんでそんなことわざわざ強調するんだどっちだっていいじゃないか変わりはしないだろ、と言われそうだけど、ここのパートにはちゃんと仕掛けがあるんですよ、歌詞としての。
本来のメロディの流れに沿えば、2行目の
『シュビドゥビ ドゥビドゥビ』
の“すぐあと”には
『ドゥビドゥワ』
が来る所なのだ。特にドゥーワップを聴き慣れてる人ほど次は「ドゥビドゥワ」だと半分無意識下に予測するだろう。それがセオリーだからね。しかし、その“ほんのちょっと先の未来に浮かぶドゥビドゥワの残像(イメージ)”にちょうどハマるように、代わりに
『ずっといたい』
が差し挟まれる。これは高度だよ。普通は“既に歌った”フレーズの子音や母音や音節数を合わせる事で音韻を“後から”踏むものなのだが、ここではそれより未来にやってくる『ドゥビドゥワ』に合わせた韻を“予め”踏むんだからこの『ずっといたい』は。“ドゥ”で書いてあってわかりにくいけどこれを“ず”と書き換えたら
『ずっといた〜ぃ』
と
『ずびずわ〜』
ですからねここ。つまり
『がんばる君の最前列にずっといたい』
という“日本語の歌詞”のラインと
『シュビドゥビ ドゥビドゥビ ドゥビドゥワ』
という“スキャット風の歌詞”のラインを同時進行で互いに絡み合わせながら韻を踏み合いつつサビメロ作ってんの。余りにぶっ飛びすぎてて最早笑えてくるよ。もちろん
『ずっといた〜ぃ』
は
「ぱっぱばらだ〜ぃ(す)」
とも韻を踏んでいるですよご覧の通り。ほんと、もう呆れて何も言えないわ。オーソドックスなスキャットと日本語の歌詞で二重螺旋みたいな音韻を構成するなんて。この人の作詞はどこまで進化するのやら。こんな凝った事しといて、この歌のリスナーのヴォリューム・ゾーンは9歳の女の子なんですよ、えぇ。ちっちゃなこどもがすっと飲み込めて何ならすぐに口遊めてる横でうちら大人は音韻の複雑さに頭を抱えて呻いてるんだから滑稽この上ない。全く、フルコーラスを聴くのが怖くて怖くてそれ以上に楽しみで楽しみで仕方がないぜパッパパラダイスはっ!