3月18日より、首都圏共通交通ICカード「PASMO」がスタートする。首都圏の私鉄・バスで利用でき、さらにはJR東日本などとも相互利用が可能。首都圏のほとんどの電車やバスを1枚のカードで乗れるようになる、画期的なサービスだ。

 サービス開始の3月18日からPASMOに対応するのは、23の鉄道事業者、31のバス事業者と、5つのSuica事業者となる(将来的には、鉄道事業者が26、バス事業者が75、Suica事業者が6まで増える予定)。

鉄道23事業者だけでも、1142駅が対応し、既存のSuica対応駅も加えたら、その倍近い駅で使えるようになる。まさに世界最大規模のICカード乗車券システムといってよいだろう。

■便利なオートチャージ機能

 PASMOの登場により、利用者は運賃表を意識することなく、電車やバスを乗り降りできるようになる。特に私鉄とJRの乗り継ぎは、運賃計算が複雑だったり、窓口や自動精算機が少なく、並んで待たされたりと不便を強いられてきた。

 しかし、PASMOが始まることにより、利用者はカードを改札にタッチするだけで支払いが完了する。運賃は降車駅での自動計算となるので、乗車駅であれこれ考える必要がない。これまで、利用者はSuica、パスネットカード、バス共通カードの3枚を使い分けてきた。しかし、PASMOにより、1枚のカードで首都圏の複雑で細かな鉄道・バス網をさらに快適に利用できるようになるのだ。

 PASMOで特に注目を浴びているサービスが「オートチャージ機能」だ(すでにJR東日本は、2006年10月より開始済み)。

 入場時に自動改札機をタッチした際に、カードの残額が設定額を下回っていた場合、一定額を自動的に入金してくれる仕組みだ。これによりユーザーは、残高が足りなくて改札で止められるという恥ずかしさから解放されるし、また、いちいち自動精算機などでカードに現金を使って入金しなくても済むようになる。

 もうひとつ、PASMOの魅力として挙げられるのがポイントサービスだ。大手の鉄道事業者では、乗車時や定期券購入時、またはオートチャージ時にポイントを付与する。ポイントは、そのままPASMOにチャージして、再度電車に乗れたり、系列のデパートやスーパーなどで利用券に引き替えできたり、さらにはJALやANAのマイレージに変更することも可能だ。

■クレジットカード契約が必要

 まさに「夢のような切符」ではあるが、当然のことながら、PASMOやSuicaにオートチャージするためのクレジットカードが必要になってくる。PASMOは、このクレジットカードがやっかいなのだ。

 PASMOでオートチャージを利用するには、株式会社パスモとクレジットカード会社3社が提携して発行する「Pastown(パスタウン)カード」か、小田急や京王、京成、京浜急行電鉄、西武や東急などの交通事業者系のクレジットカードを所有していなくてはならない。Suicaのオートチャージ機能も、JR東日本の「VIEWSuica」カード限定のサービスとなっている。

 すでに交通事業者系クレジットカードを所有していれば何ら問題はない。しかし、ユーザーの立場からすれば、新たにカードを作るというのは面倒であるし、できればすでに所有しているクレジットカードと紐づけたいというのが正直な感想だろう。

 すでに所有するクレジットカードで電車に乗ろうと思ったら、JR東日本のケータイ向けサービス「モバイルSuica」を契約すればよいのだが、これではオートチャージ機能は使えない(ただし、携帯電話を使って簡単にチャージはできるが)。

 私鉄沿線に住み、鉄道事業者系列のスーパーやデパートを頻繁に利用するのであれば、系列のクレジットカードを所有するのが最良の選択だろう。しかし、特定の鉄道事業者を使っているわけではないという人にとってみれば、クレジットカードの選択は本当に悩ましくなる。

 鉄道事業者各社は、「PASMO」という共通プラットフォームをベースにしてはいるが、クレジットカードとの連携、ポイントシステムなどはすべての会社で統一されておらず、各社で競い合っている状態。電子マネー関連も、積極的に加盟店開拓を行う鉄道事業者もあれば、京王のようにいまのところ加盟店開拓を行わないところもある。

 PASMOの周辺ビジネスに関しては、鉄道事業者によって「温度差」がある。利用希望者は、どの鉄道事業者が発行するクレジットカードを契約すれば一番メリットが大きいか、じっくり見極める必要があるのだ。

■「モバイルPASMO」の可能性は?

 PASMOの開始で気になるのが、ケータイ版の提供時期だ。

 パスモ関係者によると「いまはサービス提供で手一杯の状態。ケータイ向けは検討しているが、当面、先のことになりそうだ」という。

 ただ、PASMOは、オートチャージ機能を実現しているだけに、ユーザーにとってケータイ向けのサービスを必要と感じないのも事実だ。

 航空会社のサービスでは、予約や座席指定などケータイと連携するメリットは多数ある。しかし、普段の移動手段として私鉄を利用する場合、ケータイと連携する必然性はあまりないと言えるだろう。強いて挙げるならば、定期券の購入と特急などの予約、あるいは定期入れを持ち歩かなくてよい、ぐらいだろうか。

 Suicaを見てもわかるように、多くのユーザーがカードタイプで満足しており、ケータイ版のモバイルSuicaにはあまり目を向けていないのが現状だ(モバイルSuicaのユーザー数は2007年2月末現在で約35万人。一方のカード版Suicaは同じく2月末で1911万枚の発行枚数となっている)。

 PASMOの登場によって、非接触ICカードユーザーは一気に拡大するだろう。しかし、PASMOが牽引役となり、相互利用できるモバイルSuicaユーザーが増えるかは未知数だ。

 電子マネーを見渡すと、EdyもSuicaも、利用者はカードタイプが圧倒的で、ケータイ版を使っているユーザーはごく少数でしかない。

 おサイフケータイが使えるサービスや場所が増えたからと言って、ユーザーが本物の「財布」を持ち歩かなくなるかといえば、まずそんなことはないだろう。どんなにケータイが便利になろうとも、いざという時には「財布」が必要になってくる。「財布」を持ち歩かず、ケータイだけで完結する世界はまだ当分先のことだ。

 オートチャージ機能は「ケータイではなく、カードで充分」という気にさせてくれる。PASMOの登場で「なんでもかんでもケータイに」という、いまの風潮が見直される可能性もありそうだ。

 今後、ケータイをベースにした電子マネーや乗車券サービスは、「ケータイならではメリット」を今以上に盛り込む必要がありそうだ。