レビュー『空中庭園』 | うなすけ映画すけ!

うなすけ映画すけ!

なんつーかとにかく眠いよね。



『空中庭園』

穏やかに、ずっとそこにあり続けるもの



『理想の人生プラン』――― 誰でも一度は立てたことがあるだろう。『大学卒業後は丸の内のキレイなオフィスでお茶くみOL。ステキ上司に見初められて、ゆくゆくは花束抱えて寿退社。子供は二人!一姫二太郎☆(16歳・女子高生)』このように、トントン拍子で行くことは無いだろうと頭の片隅で思っていても、なぜか捨てられない夢。それが『理想の人生プラン』 あの頃抱いていた理想が現実のものになった人は、実際どれだけ居るんだろう。すごく気になる。

 京橋家には決まりがある。それは家族間での隠し事禁止。このルールに則って、どんなぶっちゃけ話だって共有する姿勢の母・絵里子。 『私の出生決定現場ってどこ?』『あなたは野猿っていうラブホテルで、思いがけずデキたのよ』という会話が飛び交う朝食の風景。奇妙だけれど微笑ましい仲良し一家。絵里子はいつも笑顔を絶やさず、その中心にいる。

しかし、実はそれぞれ誰にも言えないモヤモヤを抱えている。絵里子とのセックスレスで欲求不満気味、二股不倫にいそしむドM父・貴史。建物好きで、窓が無い構造のラブホテルに興味津々の思春期真っ盛り長男・コウ。学校をサボり、日中は彼氏とダラダラ暇潰ししている長女・マナ。絵里子は母とのトラウマに囚われ、理想の家庭を築こうと奮闘してきた。だがその努力とは裏腹に、家族のバランスはゆっくりと崩れ始める。

 旦那選び・子作り・新居のチョイスなど、全て自分の筋書き通りにコトを進めた絵里子。理想の人生プラン達成かと思いきや、徐々にずれ始める現実。だんだんと明るみに出る、家族の絆のほころび。上手くいかない現状に、絵里子は追い詰められていく。母親の強さと、一人の人間のもろさ。そのはざまで揺れ動く絵里子が見せる、“笑っていない笑顔”には独特の凄みがある。

隠し事の無い人なんて、この世に存在しない。家族にも打ち明けられない秘密や、踏み込んで欲しくない領域が、誰にだってあるだろう。それを隠すために嘘をつく。隠し事禁止がルールの京橋家でさえ、水面下では秘密を嘘で塗り固めていた。しかし、たとえ真実がわからなくとも、許しあい、今までと変わらず相手を思いやる。これは家族でなければ出来ないこと。どんなに暗い裏側があろうと、もっと深い部分に確かに存在する愛。ラストシーンで垣間見える家族のあたたかさに、ほほが緩んでしまうこと間違いなしである。