不老不死は誰しもあって欲しいと願うものだろう。
 昔も今も同じである。
 しかし、本気で研究している人は今はいないだろう。
 いたらマッド・サイエンティストとして扱われそうだ。

 
 例えば、バンパイヤは大抵のことでは死なないが、日光に当たったり、銀の弾丸で撃たれたり、眠っているときに心臓に木の杭を打たれると死ぬ。
 それでは不死にはならない。

 怪我をしてもすぐに治り、病気にもならず、老いず、何をされても死なないのが不老不死だとしよう。
 マンガか小説にならありうる。
 バンパイヤでも真祖(ハイ・デイライトウォーカー)はこれに近い。
 
 それに必要なのは遺伝子操作であり、まずは遺伝情報劣化の抑制と分裂回数リミットの廃止をしよう。
 病気にならない体というのはかなり難しいだろうが、それも必要となる。
 怪我などはすぐに治らないと困る。
 心臓を銃で打ち抜かれたり、眉間を打ち抜かれたくらいで死んではいけないのだ。

 
 それができたとしよう。
 とりあえず、不死身である。
 しかし、遺伝子操作によって作られたDNAが絶対に変化しないというものになるはずがない。
 DNAは劣化しないとしても、変化はするのである。
 
 例えば無性生殖がそうである。
 基本的にDNAは劣化しないし、分裂も無制限である。
 最初の固体のDNAが現在まで連綿と続いているのだ。

 しかし、そのDNAは変化する。
 全個体であるはずはなく、1個体に対してだが、それを進化という。
 顕著なのが有性生殖の誕生だろう。
 性を持つ生物は、無性生殖の生物から進化したのである。

 
 こうした絶対に死なないという不死身になった場合、実は必ず死ぬ。
 矛盾しているが、死ぬのである。

 なぜか。

 遺伝子は変化する宿命にあるからだ。
 つまり、癌などDNA異常の病気には対処できないのである。
 
 不老不死ができるくらいだから、癌も簡単に治るだろうというのも早計だろう。
 普通の人はきっと癌も薬を飲んで3日も寝ていれば治るようになるかもしれない。
 しかし、不死身の人は治らない。
 
 そう定義したからである。

 絶対に死なないしすぐに治るのだから、癌細胞だって絶対に死なず傷ついてもすぐに復活する。
 抗癌剤だろうが放射線だろうが、絶対に死んではいけない。
 外科手術しても、すぐにくっ付いて治るし、臓器だってすぐに元通りに復活しないといけない。

 血管や臓器が癌によって塞がったり機能しなくなってしまう。
 
 このように、不死身になっても必ず死ぬのである。

 
 逆に言うと、不死が実現不可能だということになる。


 不老はどうかというと、変化しない体にするということだが、これも難しい。
 細胞分裂の制御が必要ということであり、あるいは成長の抑制ということにもなる。
 
 それをさておいても、細胞レベルで言えば、これも不死がないと実現できないのだ。
 
 なぜなら脳細胞は増えないのである。
 脳細胞が死ぬとなると、見た目はどうあれ、脳は老化していくしかなくなる。
 不死が不可能だとなると、これを防ぎようがない。
 「見た目は子供、頭脳は老人」となっては不老とは言えないだろう。
 そのうち認知症になるかもしれないし、小脳も老化するから運動能力の低下や臓器の機能不全にも繋がっていく。

 つまり、不老も実現不可能である。

 
 不可能だと分かったが、それでも不老不死が実現できたとしよう。

 癌になると治せないし、脳の老化も防げないのだから、普通の人より食生活や環境に注意して過ごさなくてはならない。
 同じ生活をしていると、同じように脳は老化し、同じように癌になってしまうからである。
 あらゆる弊害を取り除き、高僧のごとき隠遁生活を送らないといけない。

 そんなことをする不老不死ならならなくて良いだろう。

 
 結論。
 不老不死は実現できないし、なっても意味がない。
 だから研究する人もいない。