当研究所の科学とは何か。
 多分、一般的に考えられていることとは違うことを想定している。

 そもそも、科学とは何か、である。
 元は哲学のひとつだった。
 現代科学ではなく、科学が科学と呼ばれていなかった頃のことである。

 
 何を科学したか。
 それは人間が普遍的に欲するものである。

 ひとつは不老不死。
 ひとるは金。

 錬金術というと怪しげに思うだろうが、金が欲しいのは貧乏人も金持ちも同じである。
 あるいは金持ちほど欲しがるかもしれない。

 不幸な人は死んで転生したいと願うかもしれないが、幸福な人であれば不老不死を願うだろうし、普通の人でも願うに違いない。

 例えば賢者の石。
 ハリーポッターの1巻にも出てくるが、この石は鉛などから金を作る触媒である。
 あるいは不老不死に使われるという説もある。
 この賢者とは「Philosopher」で、そのまま訳すと哲学者となる。

 
 これらは、そんなことは不可能だというものだろう。
 金は作れないし、不老不死も実現できない。

 
 女性誌などの見出しにありそうな文句を書いてみる。
 「自由なお金を作る方法」「1ヶ月で5万円設けるビジネス」「年100万円貯める裏ワザ」
 「5歳若返る化粧法」「お肌が10歳若返る自作化粧水」「簡単1週間美白」
 どれも同じではないか。

 人の欲は普遍であり、求められるものもまた同じというところ。

 
 実際、金(Au)は作れる。
 あるということはどこかで作られたからである。
 これは前の記事にあるので読んでいただくとして、かい摘むと、中性子星同士の衝突で作られると考えられている。
 まあ、地上で作るのはかなり難しそうだが、宇宙的規模で、中性子星をふたつみつけ、それを衝突させられるなら作ることができるだろう。
 滑稽だろうか。

 「私に十分な長さのテコと足場を与えてくれたら、この地球でも動かして見せよう」というのとさして変わらないのではないだろうか。
 これはアルキメデスの言葉である。

 
 不老不死も実現可能になるかもしれない。
 この老いることと死ぬことは、性を得る代償である。
 性を持たぬ生き物には寿命がない。
 もちろん死ぬことはあるだろうが、それは一部に他ならない。
 彼らは分裂して増えるのだから、自らの分身が多数いるのである。
 いわばクローンだ。
 クローンと違うのは一方から他方を生むのではなく、ひとつがふたつに分かれることである。
 つまり、完全な分身なのだ。

 細胞分裂の速度とDNAの劣化が最も大きな要因だろう。
 分裂の回数はテロメアによって制限され、DNAは色々なものによって傷ついていく。
 それをリセットするのが生殖なのである。

 それらを弄ったとして、それは人間と呼べるのだろうか。
 クローンは人間なのだろうか。

 倫理的な問題はどうあれ、子供手当ては数万人のクローンを作ると億単位で入ってくる。
 それらを作って育てる費用も大変だが、出生届けを書く手間も大変だ。
 バイトを何人も雇わなくてはならない。
 そんなところが気になるのだから、実現は難しいだろう。

 
 楽しいのは実現できそうもないことを実現させることである。
 空想科学とも言える。

 バカにしてはいけない。
 昔空想科学だったものも実用になっているのだ。
 飛行機でも、月ロケットでもそうである。
 空想したものは実現するという人までいるのだ。

 携帯電話だってありえない小ささに物凄い機能が詰まっているのである。

 
 科学のうち、物理学の基礎ともいえる万有引力や慣性のニュートン力学がある。
 極めて現実的なものだ。
 そのニュートンは功績から王立協会の会長と造幣局長官を80歳で亡くなるまで勤めた。
 その裏では錬金術にのめり込んでいたという。
 ニュートンをして、である。
 造幣局長官なのに金を作ろうというのは自分のためではなく、お国のためだったのかもしれないが。

 
 科学の発見には想像から始まるものが多い。
 想像から始まると言ってもいいかもしれない。

 つまり、想像することが哲学であり科学となる。
 それが当研究所の科学なのである。