何のこっちゃと思うかもしれない。
 口を広げて「はー」とした時と、すぼめて「ふー」とした時のことだ。

 一般に「はー」では暖かく、「ふー」では涼しく感じるだろう。
 何かでその説明を読んだか聞いたかした。
 何だこの人、と思った記憶がある。

 その人は「ふー」とすると、口の中で一度圧縮された空気が外に出る時に膨張するから温度が下がるのだとしていたのだ。
 どれだけ圧縮しているのだろうか。

 圧縮してすぐ膨張させたのでは熱量に差がなくなる。
 しかも圧縮時に熱を奪っておかないと、膨張時に低くなることもできないのである。
 つまり、その人は口の中でかなりの圧縮を行い、瞬時に熱を奪い、「ふー」しているらしい。
 ということは、かなり口の中が熱くなっていることだろう。
 人間業とは思えないが・・・

 冷蔵庫やクーラー(エアコン)ではこれを行う。
 コンプレッサーで圧縮した熱交換用ガスから放熱させ、そのガスが膨張するときに冷やす仕組みである。

 この放熱がなければ、温度は単に上昇する。
 機械(コンプレッサー)を動かすのだから、電力が熱エネルギーと運動エネルギーに変わり、運動によっても摩擦熱が起きるからだ。
 熱量保存の法則、エネルギー保存の法則である。
 物理学のイロハのイだろう。

 
 最初に書いたことに実は嘘がある。
 「はー」が暖かく、「ふー」が涼しいという部分だ。
 まったくの嘘ではないが、一般化できる法則ではない。

 冬に寒いと「はー」とするが、外気が入らない状態(両手で口をしっかり塞ぐようにして)では「ふー」とした方が暖かい。(もちろん夏でも同じなので試していただきたい)
 つまり、(外気を無視できれば)温度は「はー」でも「ふー」でも変わらないが、より熱を伝える(あるいは奪う)のは流速の速い方だということである。
 流れがあった方が、高い温度のものからはより熱を奪い、低いものに対してはより暖めるようになるのだ。

 熱い風呂と冷たい風呂を想像していただきたい。
 ゆっくり入ってじっとしているのと、水(お湯)をかき混ぜた場合でどう感じるだろうか。
 これは、体の表面近くの水(お湯)は体表面温度に近づいた状態になるためである。
 それが流されると、余計に熱かったり冷たかったりするのだ。
 これは物体全てに共通して言える。

 例えば鍋に水を入れ加熱すると、お湯になるが、これは鍋が温まり、その熱を鍋に近い部分にある水に伝え、それが対流することで攪拌されるからである。
 もし宇宙の無重量状態(無重力というのは俗語)では鍋を火にかけても対流が起こらないため、攪拌してやらないと全体がお湯になるのに非常に時間がかかるだろう。
 対流ではなく、伝道のみになるからだ。
 ちなみに、なぜかというと対流は温度によって比重が変化するために起こる現象で、比重(体積あたりの重さの違い、つまり重さ)は重力があった場合に意味があるものだからである。

 
 「はー」では流速が遅く、「ふー」では速くなる。
 かつ、外気を巻き込むため、「ふー」では更に外気(つまり外気温に近くなる)を多く巻き込んだ空気が当たるのである。
 前述で外気を無視するというのはこのためだ。
 更に汗という水分が蒸発するため、流速(風速)が上がると涼しく感じる。
 風速が1メートル上がると体感温度が1℃下がるのだ。

 これは温度と湿度に依存する。
 湿度100%に近い100℃のサウナの中では逆に体感温度は上がる(というか危険だ)だろう。
 同じ温度でも湿度によって体感温度が変わる。
 湿度が低いほど気化しやすく、涼しく感じられるからだ。
 じとっとした高温多湿では風があっても涼しくない。

 
 と、ちょっと考えれば判りそうなものなのだが・・・
 どういうおつもりで冒頭の人は説明したのだろうか。
 熱量保存の法則を無視してボイル・シャルルを持ち出しても意味がないだろう。

 ちなみに、ボイル・シャルルの法則は、ロバート・ボイルが発見したボイルの法則と、ジャック・シャルルが発見したシャルルの法則を併せたものである。
 同じ熱量系(?)ではあるが、煮ることを意味するボイル(boil)とはまったく関係ない。(ボイルさんはBoyleである)