今月の8日から10日ほど松江に帰省した。認知症が以前よりちょっぴり進んだ母の無聊を慰めるのが目的だったが、果たして1日5度のお茶を付き合うくらいしかできなかった。
現実は、帰省する前に描いていたものとは違い、洗濯や薬の管理、そして何より食事と、実務をこなすのが精いっぱいだった。
母の食事に関しては、食がずいぶん細くなったと聞かされていたので、
何を作ればよいのか思い悩んだ。それに自分が普段使っている醤油や味噌、塩、油などが実家には無いわけだし、やはりちょいと困った。
母は何が食べたいのだろう。まずは、わたしが子供のころに食べさせられたもの、人参やかぼちゃを煮たものや、旬の刺身などを作った。
喜んではくれたものの、箸の動きにまるで活発さが見られない。水中での動きのように鈍くゆっくりだ。
考えを変えた。
92歳になる母の食事に決定的に欠けていたのは、案外お肉ではないか。実家の住人がかってに思い描いていた老人の肉の過剰摂取のある種の思い込みがありはしないか。
私は賭けに出た。肉汁たっぷりのハンバーグを食卓に出した。
僅かな逡巡はあったものの、実にみごとにそれは平らげられてしまった。ふう、こういうことか。生きるということは。相変わらず母には教わる一方だ。