葉子さんと久しぶりに会って、あまりにもよまやま話がありすぎ、

彼女の娘に起こった事件を知ることができませんでした。

このような家族の大事件は最初に出るはずですが、風のごとく

過ぎ去るのは彼女の得意とする処世術。

 

それにしても表面だけ捉える私の思慮の浅さは一向に改善を見せません。しかも本人の口からではなく、ネットで新聞記事を見つけたのです。

 

葉子さんの娘さん(仮にさゆりさんとして)はバレリーナを目指すだけあって、のびのびした

肢体の気持ちいいほどすらっとした容姿でした。

 

ところがあまりに背が伸びすぎて、それにトウシューズを履くと

さらに高くなりますよね。

相手の男性は180cm以上じゃないと釣り合いがとれなくなります。

 

ということでバレエを断念したそうです。

これも知らなかった。

 

バレエを断念したさゆりさんはフラメンコに転向していたらしいのです。そしてどちらが後か先かわかりませんが、スペインに移住して

そこで結婚もしていたそうです。

(わーますます知らなかった)

 

そんなさゆりさんにある日突然、足に不調が訪れる。

なんと、「骨肉腫」になったのだそうだ。
ちょうどスペインに勉強に来ていた某大学病院の医師が
いて、偶然はないというが、なんてラッキーな人。

僕が見てあげるよということでその病院で手術を受けることにしたそうだ。
でももうフラメンコは踊れないというのが、常識だが、
この医師は意志を曲げなかったらしい。

必ず治すから僕の言うとおりにして。

さゆりさんは、その言葉を信じていうままにリハビリを
繰り返したのでした。

そして5年後。
見事に立ち直った、さゆりさんは再び日本に戻り、
病院でお礼のダンスを披露したそうだ。

その様子がネットでニュースとして載っていました。

病院では、骨肉腫のほかにも難病を抱えた若い人たちが
たくさん入院していたらしいが、骨肉腫を乗り越えたさゆりさんに
生きる勇気をもらい、闘病精神が全員に湧いたらしい。

さすが、葉子さんの子供。
積極思考は子供たちにも遺伝し、みごと世の中を感化する
人に成長させたのです。

MACでアイスを飲みながら、スペインを行ったり来たりした
73歳の老戦友がたんたんと話すのを、
私は涙しながら、聞いていました。

 

もう何も言えませんでした。

ただ葉子さんの手をさすり、握りしめるだけでした。

やっぱりお見事だなあ。葉子さんは立派だなあ。
出会って、ともだちに加えてもらって光栄だ。

 

人に影響を与える人は、突然影響を与え始めるというのは

ない。

若いときから、ポジティブな傾向性を持っているから

人に与える生き方を常に持っているものだ。

それが歳と共に円熟して、聞く方も話す方もいつの間に、

互いの生き方から学んでいる。