そんなんじゃない。
そんなんじゃない。
貴方のいう私は私の私と掛け離れていてそうなってゆくほど辛かった。
きっと似合うからと渡された真っ赤なリボンは私の黒い髪に良く映えたけど、鏡に映るその姿は私が知る私では無かった。
そして、ああ、あの人にはこんな風に映っているのかと。貴方の私と私の私が離れてゆくのを。
「痛感したんです、私」
そしたら貴方は驚いたような困ったような、不思議な顔をして。気に入っているのだろう私の髪を撫でては一度躊躇うも口を開く。
「君の価値は君が決めるものじゃない。例えば此処に一つの林檎があったとして、それを育てた君は最悪の出来だと言うけど、俺が食べてみるとそれはそれは美味しくて褒めて称えた。この時君はその齟齬に嘆くべきか称賛に歓喜すべきか。どっちだっていいけど、君だって幸せになりたいよね。君は林檎を売るのが仕事だからそれを食べられないけど、買い手はその味を良く知ってる。美味しいかどうかは他人が決めるんだよ」
私にはあの人の言葉がまだ分からなかった。分からなかったけれど、何かを必死に伝えてくれようとしたことだけは分かった。
私の為に伝えてくれているのだと分かった。